SEEN2522 #Z01 Episode:Little Busters 前
Last Episode:Little Busters
<1823>僕たちは渡り廊下を進んでいく。
<1827>【真人】「これからどうする?」
<1828>【理樹】「うーん、そうだね…」
<1829>【理樹】「なんでもいいんだけど…」
<1830>【理樹】「やっぱ野球かな」
<1834>【真人】「お、いいね」
<1838>【謙吾】「さすが理樹。わかってるじゃないか」
<1842>【鈴】「あたしがピッチャーだ!」
<1843>【理樹】「うん、いいよ」
<1844>【理樹】「よし、グラウンドに出よう」
<1848>僕たちの後ろには、最後に仲間になった恭介がいる。
<1849>僕は歩を緩めて近づいていくと、その手を握ってやった。
<1850>【理樹】「恭介、野球だよ、いこう」
<1854>【恭介】「ああ」
<1859>歩く校舎は静かだった。
<1860>まるで、僕たち以外、誰もいないようだ。
<1861>人影すら目につかない。
<1862>もしそうだとしても、なんだかそれでもいい気がした。
<1863>僕はリトルバスターズを取り戻したんだから。
<1883>カィン!
<1884>痛烈なゴロ。
<1885>【理樹】「セカンド、謙吾!」
<1889>【謙吾】「任せろ!」
<1890>バックハンドで取り、腕だけのスローイングでファーストの真人へ。
<1894>ぱしっ!
<1898>【真人】「ナイスピッチ!」
<1902>再び鈴へ。
<1907>これがこの世界の最後の光景。
<1908>悪くない。
<1909>涙が出そうなほどに、無邪気で、子供らしい光景だ…。
<1910>リトルバスターズの終焉には相応しすぎる。
<1911>でもこの世界を機能させていくためにはもう、人数も足りていない。
<1912>まるで野球と同じだ。
<1913>何が欠けても、狂いが生じる。
<1914>人がいないのも、そう。
<1915>猫がいないのもそう。
<1916>空が動かないのもそう。
<1917>世界は狂い始めている。
<1918>でも、この光景だけは守ろう。
<1919>最後のその時まで。
<1920>最後の5人の姿だ。
<1932>謙吾は今にも泣きそうな顔をしている。
<1933>おまえが一番の甘ちゃんだったな。
<1934>泣き虫で、意地っ張りで、あまのじゃくで。
<1935>でも、十分遊んだだろ?
<1936>楽しかったよな。
<1937>俺もおまえと遊べて最高に楽しかったぜ。
<1941>どすっ。
<1945>【真人】「うっ…」
<1946>顔面に牽制球を受ける真人。
<1947>【真人】「鈴…牽制はプレートをはずしてからだ…」
<1948>言いながらも、球を返す。
<1949>真人、おまえもよくやってくれた。
<1950>すべてを知っていようが、今まで通りのおまえでいてくれた。
<1951>馬鹿をやり続けてくれた。
<1952>そうしてこの世界での日常を支えてくれた。
<1953>絶対俺たちだけでは支えきれなかったものだ。
<1954>おまえの馬鹿はみんなを幸せにする。
<1955>それがわかっただろ?
<1956>愛すべき馬鹿だ。
<1957>俺も最高に愛してるぜ。
<1963>後は、理樹。
<1964>鈴をよろしくな。
<1965>おまえになら、鈴をやるぜ。
<1966>おまえのほうが大変だろうけどな。
<1967>でも、ふたりなら幸せになれると思うぜ。
<1972>こんなふうに言いたいことはたくさんあるがな…
<1973>言わないでおこう…。
<1974>最後まで、いつもの俺のままでいよう…。
<1979>俺は謙吾と真人に目配せを送る。
<1980>指を一本立てる。
<1981>残り一球ずつだ。
<1982>ふたりは頷いた。
<1986>鈴がセットアップに構える。
<1987>ここで牽制は投げてやるなよ。
<1988>最後にしてはちと酷だ。
<1992>しゅっ。
<1993>バッターの理樹に向けて投げた。
<1994>カン!
<1995>打ち上げた。
<2000>一塁側ベンチのほうにトップフライが舞い上がる。
<2001>見送ればファールだ。
<2002>けど、真人はそれを追いかけていく。
<2009>【理樹】「危ないって!」
<2010>どんっ。
<2011>段差に躓いて、転げながらも、それをキャッチしてみせた。
<2012>そうか…。最後までおまえは、自分らしさを守るか。
<2013>すげぇよ。心から拍手を送るぜ。
<2017>【理樹】「真人、大丈夫!?」
<2021>【真人】「平気さ」
<2022>泥まみれになって起きあがる。
<2027>【真人】「さて…こいつを掴んじまったらもう去らなくちゃいけねぇ」
<2031>【理樹】「…え?」
<2042>【真人】「お別れだ、理樹」
<2043>【理樹】「…なにをいってるの…真人…?」
<2044>【真人】「えーとな、理樹」
<2045>改まったように話を始める。
<2046>【真人】「おまえとルームメイトになれてよかった」
<2047>【真人】「長い時間、一緒に過ごせてよかった」
<2048>【理樹】「ちょっと待ってよ、真人…どこかにいっちゃうの?」
<2049>【真人】「俺はおまえと過ごせてよかったと思ってる」
<2050>【真人】「その…」
<2051>聞きづらそうに鼻をかく。
<2052>【真人】「…理樹のほうはどうだった?」
<2053>【理樹】「え?」
<2054>【理樹】「そりゃもちろん…僕もだよ…」
<2055>【理樹】「真人がルームメイトだから、こんなに寮生活が楽しかったんだ…」
<2056>【理樹】「真人じゃなかったらありえないよ、こんな楽しい生活…」
<2057>【真人】「そっか…」
<2058>【真人】「なんだろ…」
<2059>【真人】「すげぇ嬉しいぜ」
<2060>【理樹】「え…」
<2061>【理樹】「ねぇ、どこにも行かないよね、真人は?」
<2062>【真人】「こんな馬鹿と一緒に過ごしてくれて」
<2068>真人がボールを投げ返す。
<2069>その大きな体が…
<2070>【真人】「ありがとな」
<2080>消えた。
<2087>【理樹】「…!?」
<2093>【理樹】「え、あれっ」
<2094>【理樹】「何が起きたの!?」
<2095>【理樹】「ま、真人がいなくなった!」
<2096>【理樹】「ねぇ、みんな、探してよっ」
<2097>【理樹】「真人が消えちゃったよ!」
<2098>【恭介】「理樹、何をうろたえてるんだ」
<2110>【理樹】「だって、真人が、真人が…」
<2114>【恭介】「おまえがその強さで辿りついた場所がここだ」
<2118>【理樹】「…なにをいってるのさ…」
<2119>【恭介】「これからおまえは、『何かが起きた世界』へと向かう」
<2120>【恭介】「そこが本当の世界だ」
<2121>【恭介】「この世界は偽りだ」
<2122>【恭介】「俺たちが作り出した世界だ」
<2123>【恭介】「いいか、よく聞け」
<2124>【恭介】「生き残るのは、理樹、そして鈴、おまえたちふたりだけだ」
<2139>【恭介】「生き残るのは、理樹、そして鈴、おまえたちふたりだけだ」
<2140>突然の恭介の言葉に…僕は愕然とする。
<2141>何を言い出すんだ…恭介…。
<2142>【理樹】「なんなの…わけがわからないよ…」
<2143>【恭介】「修学旅行のバスが崖から転落したんだ」
<2144>【理樹】「え…」
<2145>どこかで聞いた話だ…。
<2146>確か春休み明けの全校集会で伝えられた…。
<2147>その後、僕も図書室でその新聞を読んだ…。
<2148>それは…。
<2149>【理樹】「併設校に通っていた、とあるグループが、旅行先で事故に遭った…」
<2150>【恭介】「違う」
<2151>【恭介】「俺たちに起きたんだ」
<2152>え…。
<2153>【恭介】「俺たちは、助からない」
<2154>【恭介】「おまえたちふたりだけは、真人と謙吾が身を挺して守ったおかげで九死に一生を得た」
<2155>【恭介】「だが、おまえたちふたりだけを残して俺たちは死ぬわけにはいかなかった」
<2156>【恭介】「おまえたちは弱すぎる」
<2157>【恭介】「目覚めと共に絶望してしまう」
<2158>【恭介】「だから、俺たちはこの世界を作り出した」
<2159>わけがわからない…。
<2160>この『世界』を作り出した?
<2161>確かに…おかしな点はいっぱいあった…。
<2162>じゃあ…それが…
<2163>【理樹】「この世界の…秘密なの?」
<2164>【恭介】「そうだ」
<2165>【理樹】「そんな…どうやって…」
<2166>【恭介】「それはわからない」
<2167>【恭介】「暗闇の中…俺は叫んだ」
<2168>【恭介】「それは水の波紋のように広がっていった」
<2177>【恭介】「それに応えるかのように波紋が俺の元まで届いた」
<2184>【恭介】「みんなは、『そこ』にいたんだ」
<2185>【恭介】「それが死の世界なのか、臨死の世界なのか、それはわからない」
<2186>【恭介】「ただ、俺たちは『そこ』で意識を共にしたんだ」
<2187>【恭介】「何も見えなくても、何も聞こえなくても」
<2188>【恭介】「確かに、俺たちは『そこ』で語り合ったんだ。思いの波紋を広げ合って」
<2195>【恭介】「そして決めた」
<2196>【恭介】「ふたりのためにひとつの世界を作り上げようと」
<2197>【恭介】「みんなとの出会いの日から、『事故が起きる』までの一学期を永遠に繰り返す」
<2198>【恭介】「そんな世界を」
<2199>【恭介】「みんなの思いが重なり、ひとつの大きな波紋が広がっていった」
<2206>【恭介】「ここは俺たちの思いによって作り出された世界だ」
<2207>【恭介】「みんなの思いが、世界を作り、現象を起こし、人を動かしてきた」
<2208>【恭介】「そんな世界で、おまえたちが強くなるまで、見守ることにしたんだ」
<2209>【恭介】「いつか、過酷な現実にも負けない強さを得るまで」
<2210>つまり…
<2211>ここは…死の世界で…。
<2212>その淵にいる、僕も鈴も一緒に連れてこられた…。
<2213>いや…僕らを包み込むように…。
<2214>きっと…そこには僕らを思う優しさしかないはずから…。
<2215>【恭介】「けど、俺は失敗した」
<2216>【恭介】「やり方が強引すぎた」
<2217>【恭介】「鈴の心に深い傷を負わせてしまった」
<2218>【恭介】「でも、理樹」
<2219>【恭介】「おまえが、その心も癒して、ここまで連れてきてくれた」
<2220>【恭介】「理樹、おまえはもう十分に強くなった」
<2221>【恭介】「鈴も、昔から考えると、ずっと強くなった」
<2222>【恭介】「だから、鈴を連れてこの先へ進め」
<2223>【恭介】「それが最初の一歩だ」
<2224>【恭介】「すべてはそこから始まる」
<2225>【恭介】「止まっていた時間が動き出す」
<2226>【恭介】「どんな現実を目の当たりにしても…」
<2227>【恭介】「強く生きろ」
<2228>【恭介】「いいな、理樹」
<2229>【理樹】「………」
<2230>【恭介】「…理樹」
<2231>【恭介】「誓ったんだろう? 強く生きると」
<2232>【理樹】「え…いつ…」
<2233>【恭介】「思い出せずとも、おまえは誓ったんだ」
<2234>【恭介】「今のおまえが忘れてようが、いつかのおまえは強く生きることを誓い…」
<2235>【恭介】「そしてここまでやってきた」
<2236>【恭介】「おまえは誓い通りに、ここまで強さを積み重ねてきたんだ」
<2237>ああ…どうしてだろう…。
<2238>そう誓った日が確かにあった気がする…。
<2239>【恭介】「だから、ここまで来たんだろう?」
<2240>そうだったんだ…。
<2241>僕は自分の意志でここまできたんだ…。
<2242>【恭介】「ここで立ち止まるのか?」
<2243>恭介の叱咤が続く。
<2244>【恭介】「ずっとここで遊んでるのか?」
<2245>………。
<2246>【理樹】「…そんな事実を…」
<2247>【理樹】「とつぜん言われても…」
<2248>………。
<2249>【理樹】「でも…」
<2254>【理樹】「僕は…」
<2256>そう…人はいつまでも子供じゃいられない…。
<2257>いつまでも遊んでるわけにはいかないんだ…。
<2262>【理樹】「いかなきゃね…」
<2263>そのために、ここまでやってきたんだ…。
<2264>わかっていたはずだ…。
<2265>その先に待つ試練を…。
<2266>みんなの思いを無駄にしないためにも…。
<2267>僕は…
<2268>【理樹】「いかなきゃいけないんだよね…」
<2269>【恭介】「…そうだ」
<2270>【恭介】「強く生きるんだ」
<2271>【恭介】「いいか、絶対に泣くな」
<2272>【恭介】「ここから先は絶対に泣くな」
<2273>【恭介】「そんな弱さはもう許されないんだ」
<2274>【理樹】「…ああ」
<2275>…もう泣かない。
<2276>そんな強さを…もう僕は手に入れてるんだ。
<2277>恭介が…みんなが…僕にくれたんだ。
<2281>【恭介】「…さあ、鈴、再開だ」
<2285>【鈴】「…?」
<2286>僕は鈴へボールを返す。
<2287>【鈴】「…よくわからないがいいのか?」
<2288>【理樹】「いいんだよ、鈴」
<2289>【理樹】「投げて」
<2293>【鈴】「うーむ…よくわからんが理樹がいうならそうしよう」
<2294>そうだ。僕の言うとおりにすればいい。
<2295>鈴、連れていくから、僕が。
<2299>振りかぶって、投げた。
<2303>カィン!
<2304>ぼてぼてのゴロだ。
<2305>謙吾が、それを胸に当て、落とした。
<2306>拾おうと前のめりになり、そのまま手を地面について倒れた。
<2307>それでもボールだけは離さなかった。
<2311>【恭介】「泣くことは許さないぞ。顔を上げて返してやれ」
<2315>その顔を上げる。今にも泣きそうな顔を。
<2319>【謙吾】「俺は嫌だった…」
<2320>謙吾が…話を始めた。
<2321>【謙吾】「やっと、遊べるようになったんだ…」
<2322>【謙吾】「ずっと、遊んでいたかった…」
<2324>【謙吾】「失った時間を…取り戻したかった…」
<2325>【謙吾】「俺は必死だったんだ…」
<2326>【謙吾】「みんなと一緒に居たかった…」
<2327>【謙吾】「でも…ここでそれも…おしまいだ…」
<2328>【謙吾】「鍛えたこの腕も報われず…」
<2329>【謙吾】「………」
<2330>【謙吾】「なあ…」
<2331>【謙吾】「俺の人生は…幸せだったのか…」
<2335>【恭介】「それは、誰にもわからない」
<2336>【恭介】「謙吾、おまえ自身が決めることだ」
<2337>【恭介】「謙吾は今、どう思っているんだ」
<2341>【謙吾】「………」
<2342>【謙吾】「…幸せじゃなかった…」
<2346>【謙吾】「なんて、言えるわけないだろう…」
<2348>【謙吾】「おまえらみたいな友達に恵まれてっ!」
<2349>【謙吾】「幸せだったさっ」
<2350>【謙吾】「おまえたちと出会えていなかった人生なんて考えられない!」
<2351>【謙吾】「それぐらいだっ」
<2355>【恭介】「そっか…」
<2356>【恭介】「そいつはよかったな」
<2357>【謙吾】「ああ…」
<2361>僕の元へと近づいてくる。
<2365>その姿は悠然としている。いつもの謙吾だ。
<2366>目の前で足を止め、ボールを僕に渡す。
<2367>受け取る。
<2368>からになった謙吾の手は僕のほうを向いたままだ。
<2373>【謙吾】「握手を」
<2374>【謙吾】「友情の証を」
<2375>僕が手を差し出す。
<2380>握り合わさる。ごつごつしていて大きな手。
<2381>でも暖かい。
<2387>【謙吾】「リトルバスターズは不滅だ…」
<2400>握るものを失った僕の手は自然と垂れ下がった。
<2407>【鈴】「…なんだ?」
<2408>まだ状況を理解していない鈴が不思議がる。
<2409>【鈴】「馬鹿ふたりはどこいった?」
<2410>【理樹】「………」
<2411>僕は黙ったままでいた。
<2412>でもまた、鈴に球を返す。
<2413>【鈴】「まだ続けるのか?」
<2414>僕は無言のまま頷いた。
<2416>震動と共に、地鳴りのような音がする。
<2420>【鈴】「…!?」
<2424>【鈴】「…地震か!?」
<2428>何かが今まさに失われようとしている。
<2429>恭介はこの世界をみんなで作り出したといっていた。
<2430>真人が去り、謙吾がいなくなり…
<2431>そして残るは恭介だけ。
<2432>今は…その恭介ひとりでこの世界を支えているんだ。
<2433>それが…もうすぐ崩れ去る…そんな音だ。
<2437>【恭介】「急げ、理樹」
<2441>【理樹】「鈴、投げて」
<2445>【鈴】「う、うん…」
<2449>振りかぶる。
<2450>最後の一球だ。
<2454>しゅっ。
<2455>絶好球。
<2456>カン!
<2457>芯でミートした。
<2458>振り抜いていた。
<2459>大飛球だ。
<2460>見上げる。
<2465>あんなの届くはずもない。
<2466>ぐんぐんと青い空へ向けて伸びていく。
<2467>やがて白い点となって消えた。
(to SEEN2522 #Z02 <2476>)
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SEEN2522 #Z02 Episode:Little Busters 後
<2476>【恭介】「…ったく」
<2477>【恭介】「もうおまえたちには敵わねぇな…」
<2481>【恭介】「サヨナラホームランだ」
<2485>グローブを地面に置くと…
<2489>恭介は背中を向ける。
<2490>【理樹】「恭介っ」
<2491>最後に僕は…すがるように叫んでしまう。
<2492>【理樹】「それはもう、どうしようもないの!?」
<2493>【恭介】「ああ…どうしようもない」
<2494>【恭介】「それは誰も悪くない…」
<2495>【恭介】「自分を責めるんじゃないぞ…」
<2496>【恭介】「おまえは強くなった、大丈夫だ」
<2497>恭介は歩き出す。
<2498>【理樹】「待ってよ、話をっ…」
<2499>【理樹】「まだ時間はあるでしょっ」
<2500>【理樹】「話をしてよ、恭介っ」
<2501>【理樹】「もっと聞かせてよっ」
<2502>【理樹】「昔みたいにっ」
<2503>【恭介】「理樹、これからはおまえがその役なんだぞ?」
<2504>【恭介】「そんなので、鈴をどうする」
<2505>【理樹】「だって、こんなのってないよっ」
<2506>【理樹】「僕は恭介を追ってここまでずっと生きてきたんだっ」
<2507>【理樹】「その恭介がいかないでよっ」
<2508>隠していた弱さが…涙のように溢れて、こぼれてくる。
<2509>【恭介】「ったく困った奴だな…」
<2510>【恭介】「おまえは、いつまで俺を困らせるんだよ…」
<2511>【理樹】「そんなのいつまでもだよっ」
<2512>【理樹】「強くなったとか、世界の秘密とか、そんなことどうだっていいっ」
<2513>【理樹】「僕は恭介が好きだからっ」
<2514>【理樹】「だから、ずっと一緒にいたいんだよっ」
<2515>【理樹】「当然でしょ!?」
<2521>【恭介】「あのなぁ…」
<2533>【恭介】「そんなの俺のほうが嫌に決まってんだろおぉぉ!!」
<2534>【恭介】「なんで、おまえらを置いていかなきゃいけないんだよ!!」
<2535>【恭介】「俺だって、おまえたちと居てぇよ!!」
<2536>【恭介】「ずっとずっと居たかったんだよ!!」
<2537>【恭介】「なんで、こんな理不尽なんだよ!! ちくしょう!!」
<2538>【恭介】「ずっとずっと、そばにいたかった!!」
<2539>【恭介】「俺のほうが、ずっとずっとおまえたちのことが好きなんだよ!!」
<2540>【恭介】「なのに…おまえたちを置いていくなんて…」
<2541>【恭介】「そんなの…ねぇよ…」
<2542>【恭介】「なんでだよ…」
<2543>【恭介】「わけわかんねぇよ…」
<2544>【恭介】「くそぉ…」
<2545>【恭介】「………」
<2546>【理樹】「恭介…」
<2547>【恭介】「………」
<2548>【恭介】「いってくれ…」
<2549>【恭介】「理樹…鈴をつれて…」
<2550>【恭介】「校門から、でられる…」
<2551>【理樹】「こ…校門…」
<2552>【恭介】「そうだ…もう振り返るな…」
<2553>【恭介】「校門を駆け抜けろ…」
<2554>【理樹】「………」
<2555>【恭介】「時間はもうない…」
<2556>【恭介】「鈴を巻き添えにしたいのか…」
<2561>その言葉でようやく、我に返る。
<2562>僕は、鈴を守らないといけないんだ。
<2566>【恭介】「早くいけえぇぇ!!!」
<2570>【恭介】「もう迷うな! とっとといけぇーーー!!!!!」
<2571>その怒声が背中を押した。
<2575>【理樹】「鈴っ」
<2576>僕は鈴を呼んで、その手を掴んだ。
<2580>【鈴】「何が始まる!?」
<2581>【理樹】「何もかもが。ずっと止まっていた何もかもが」
<2585>僕らは、走り出す。
さよなら
恭介
さよなら
リトルバスターズ
<2618>僕らは校門を駆け抜けた。
<2635>………。
<2636>……。
<2637>もう…声はしない…。
<2638>………。
<2639>いったか…。
<2640>終わった…。
<2641>…永遠の一学期が。
<2643>やり終えたんだよな、俺は…。
<2644>喜んでいいんだよな…。
<2645>よかった…。
<2646>立ち上がる。
<2647>世界の輪郭はもう朦朧としている。
<2648>それとも白濁しているのはおれの意識のほうか…?
<2649>もう…なんでもいいや…。
<2650>やることはもう何も残っていない…。
<2651>はは…
<2652>手持ちぶさただ…。
<2653>俺は校舎を見上げる。
<2654>最後に…
<2655>みんなと過ごしたこの場所を見て回るか…。
(to SEEN2523 #Z00 <0017>)
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SEEN2523 #Z00 修学旅行 前
修学旅行
<0017>目覚めた。
<0018>全身を襲う痛み。
<0019>体を動かす。
<0020>どこが上で下だかもわからない。
<0021>指が動く。
<0022>…目に光が差し込んできた。
<0023>身を捩じらせて、そこまで這っていく。
<0024>何か…色々な障害物がある。
<0025>けれど、視界がはっきりしない。
<0026>【声】「…りき」
<0027>すぐそばで声がした。鈴の声だ!
<0028>【理樹】「鈴、ここだ、僕はここだよっ」
<0029>必死に伝えた。
<0030>手を伸ばした。
<0031>ぱし。
<0032>それが合わさった。
<0033>温かい…。
<0034>【鈴】「りき…からだがいたい」
<0035>【理樹】「僕もだよ…」
<0036>体を這わせて寄っていって、顔を見た。
<0037>懐かしいような鈴の顔だ。
<0038>鈴の手を取って、そこから這い出した。
<0043>【理樹】「戻ってきたんだよ…」
<0047>【鈴】「ここは…どこだ…」
<0051>【理樹】「ここは…」
<0052>【理樹】「修学旅行の途中の道…」
<0053>【理樹】「その崖の下だよ…」
<0054>記憶が次々と蘇ってくる。
<0055>あの、バスの中の騒ぎが克明に思い出される。
<0056>バスが何かにぶつかった。
<0057>激しく揺れ、生徒が右から左へ飛ぶ。
<0058>全員がパニック状態。
<0059>そして上下が入れ替わった。
<0060>天井が床になっていた。
<0061>そこで前に座っていた真人の顔が、すぐ正面に現れた。
<0063>【理樹】「真人が…助けてくれたんだ…」
<0064>【理樹】「鈴は…?」
<0068>【鈴】「謙吾が…あたしに抱きついた」
<0069>【理樹】「それは…謙吾が助けてくれたんだよ…」
<0070>【鈴】「そうだったのか…」
<0071>【理樹】「立てる…?」
<0072>【鈴】「わからない…やってみる…」
<0076>僕は痛む体にむち打ち、立ち上がる。
<0077>どこもかしこも痛い…全身が悲鳴を上げている。
<0078>それから、てこずっていた鈴の肩を抱き上げ、立たせてあげた。
<0079>ふたり人の字のようにもたれ合って立つ。
<0084>その眼前…
<0085>いつか夢の中で見た、絶望の風景だ…。
<0086>それを今現実のものとして突きつけられている…。
<0087>目を逸らしたい…。
<0088>でも、みんながそこに居る。
<0089>助けなきゃ…。
<0090>それともここからすぐ離れるべきか…。
<0095>みんなを助ける (to <0103>)
<0095>鈴を連れて逃げる (to <0214>)
<0103>よし、みんなを助けないと…。
<0104>【理樹】「鈴! 大丈夫、みんなを助けよう」
<0108>【鈴】「うん」
<0112>あたりには石油のような臭いが立ち込めていた。
<0113>早く助けないと引火する危険がある!
<0114>僕は、大破した前方部分からクラスメイトを引きずり出す。
<0115>【理樹】「…くっ!」
<0116>気絶した人間の体の重さに愕然とする。
<0117>鈴もまごついて、僕をすがるように見ていた。
<0122>時間だけが過ぎていく…。
<0129>破裂音が響いた。
<0133>バスの後ろから火の手が上がる。
<0134>ああ、どうしたらいいんだ…!?
<0135>パニック状態に陥る。
<0139>――くらり、と世界が揺れた。
<0140>こんなタイミングで来るのか…
<0141>忌まわしき病気…ナルコレプシー…
<0152>薄れていく意識の中で、閃光と熱風が僕らを包んだ。
<0153>ただ、白くなる。
<0154>何も感じなくなって…。
<0155>………。
<0156>……。
<0157>…。
…こうなるんだ、わかったか…?
…だから、次は逃げるんだ…
…鈴を連れて…
…いいな…
(END)
<0214>そうだ、冷静になれ…。
<0215>みんなはもう…助からないんだ。
<0216>そのうち流れ出た燃料に引火し、燃え出す。
<0217>ここら一帯は火の海と化す…。
<0218>その前にできるだけ離れないと…。
<0219>鈴を連れて、逃げるんだ…。
<0223>【理樹】「いくよ…鈴…」
<0224>その手を引いた。
<0225>バスとは反対方向へ…。
<0226>【鈴】「どこへっ…」
<0227>【理樹】「生きるんだ、僕たちは…」
<0228>【鈴】「みんながっ…」
<0233>説明しても、鈴は納得しないだろう。
<0234>僕は無言でその手を引き続けた。
<0235>僕らは生きるために、戻ってきた。
<0236>みんなからその強さをもらって。
<0237>これが正しいんだ。
<0238>右。
<0239>左。
<0240>右。
<0241>左。
<0242>一歩ずつ歩むを進める。
<0243>その場所を後に、鈴を連れて歩いていく。
<0244>ただ…恭介。
<0245>ごめん…。
<0246>涙は止めようもないよ…。
<0247>これだけは許してほしい…。
<0248>鈴は僕が守るから…。
<0249>守り続けるから…。
<0251>………。
<0252>ふわりと体の力が抜ける。
<0253>そうか…こんな時に訪れるのか…。
<0254>忌まわしき病気…ナルコレプシー…
<0255>なるほど…
<0256>もし僕があの場で助けにいったり、悩んだりしていたら…
<0257>僕まで倒れてしまって…
<0258>鈴ひとりではどうすることもできなくて…
<0259>一緒に火に飲まれていたんだな…。
<0260>一直線にここまでこれて、よかった…。
<0261>鈴を連れてこれてよかった…。
<0262>ここまできたなら、大丈夫かな。
<0263>もう、十分離れたかな…。
<0264>【鈴】「りきっ」
<0269>僕は大丈夫…。
<0270>いつものだよ、鈴。
<0276>………。
<0277>……。
<0278>…。
(to SEEN2602 #Z00 <0020>)
0
SEEN2523 #Z04 Epilogue
Epilogue
<0313>次目覚めたのは白い世界だ。
<0315>いつか見た世界だ…。
<0316>それは遠い記憶の中にあって、うまくは解けてくれなかった。
<0321>点滴を打たれている。
<0322>ベッドで寝てるんだな、僕は…。
(to <0346> & Mission=1)
<0327>次目覚めたのは白い世界だ。
<0329>いろんな世界があるんだな…。
<0330>………。
<0331>…天井か。
<0332>白い天井…。
<0333>右手が痛む…。
<0334>持ち上げて見てみると、管が刺さっていた。
<0335>点滴…。
<0342>病院か…。
<0345>ベッドで寝てるんだな、僕は…。
<0346>鈴は…?
<0347>【理樹】「鈴っ」
<0348>その名を呼んだ。
<0349>【理樹】「鈴!」
<0350>【鈴】「ここにいる…理樹」
<0351>隣から声がした。
<0356>その方向に顔を向けると、鈴が部屋の端でうずくまっているのが確認できた。
<0357>【理樹】「よかった…」
<0358>僕は安心した。
<0359>手を繋ぎたいと思った。
<0360>でも、起きあがることもできず、それはできなかった。
<0361>【鈴】「理樹はすごく寝ていたな」
<0362>【理樹】「うん…」
<0363>【理樹】「疲れてたんだ…」
<0364>【理樹】「いろいろがんばったから…」
<0365>【鈴】「そうか…」
<0366>【理樹】「鈴は怪我はなかったの…?」
<0367>【鈴】「………」
<0369>鈴はその質問には答えない。
<0370>まあ、ベッドに寝ていないわけだから、大丈夫だったんだろう。
<0371>【鈴】「あのな」
<0372>【鈴】「先に先生に会ったんだ」
<0373>【理樹】「うん…」
<0374>【鈴】「みんなどうなったか訊いたんだ」
<0375>【理樹】「うん…」
<0376>【鈴】「でも教えてくれなかった」
<0377>【理樹】「そう…」
<0378>【鈴】「理樹は気にならないのか?」
<0379>【理樹】「あのね、鈴」
<0380>【鈴】「うん?」
<0386>【理樹】「僕は鈴を守って生きる」
<0387>【鈴】「…突然なんだ?」
<0388>【理樹】「ようは…」
<0389>【理樹】「何が起きようとも、僕がいる」
<0390>【理樹】「だから、安心してよ」
<0391>【理樹】「鈴の手を引いていく」
<0392>【理樹】「どこまでもいくから…」
<0393>【理樹】「一緒に生きよう」
<0394>【鈴】「………」
<0395>【鈴】「…それは…プロポーズか?」
(If Game=0, to <0430>; If Game=1, to <0399>)
<0399>うん (to <0405>)
<0399>いや (to <0417>)
<0405>【理樹】「うん」
<0406>【鈴】「唐突だな…」
<0407>【理樹】「うん…」
<0408>【鈴】「うーん…」
<0409>【鈴】「理樹ならいいな」
<0410>【鈴】「うん、受けてうある」
(If Mission=0, to <0414>;If Mission=1, to <0439>)
<0414>【鈴】「理樹がいるならこれからもずっと…生きていけそうだ」
(to <0482> & Rin=1)
<0417>【理樹】「そんな大層なものじゃないけど…」
<0418>【理樹】「ずっと守っていけたらな…って」
<0419>【鈴】「そうか…」
(If Mission=0, to <0426>;If Mission=1, to <0439>)
<0426>【鈴】「理樹がいるならこれからもずっと…生きていけそうだ」
(to <0482>)
<0430>【理樹】「そんな大層なものじゃないけど…」
<0431>【理樹】「ずっと守っていけたらな…って」
<0432>【鈴】「そうか…」
(If Mission=0, to <0437>; If Mission=1, to <0439>)
<0437>【鈴】「理樹がいるならこれからもずっと…生きていけそうだ」
(to <0482>)
<0439>【鈴】「理樹がいるならこれからもずっと…生きていけそうだ」
<0440>【鈴】「だから、いなくなるんじゃないぞ」
<0441>【理樹】「うん…僕は大丈夫」
<0442>【鈴】「…よかった」
<0443>鈴は前向きだ。僕がいるから。
<0444>これからはずっとそばにいるから。
鈴 エンディング(SEEN9501)
(END)
<0482>【鈴】「だから、いなくなるんじゃないぞ」
<0483>【理樹】「うん…僕は大丈夫」
<0484>【鈴】「そうか…」
<0487>【鈴】「よかった」
鈴 エンディング(SEEN9501)
…いいよな…これで?
<0521>いい (to @1)
<0521>よくない (to @2)
@1
…よし、じゃ、幸せにしてやってくれよな
…もちろん、おまえもだ
…じゃあな…
(END)
@2
…鈴の気持ちは変わらない
…現実でも今の通り同じになるはずだ
…おまえたちは幸せになれる
…何が不服だ
<0599>みんながいない。
<0600>僕たちしかいない。
…無理だ
…救えない
…おまえたちまで死んでしまう
<0622>可能性はある。
<0623>僕が、ナルコレプシーを克服すればいい。
…無理だ
…そうしたとしても、鈴が足手まといになる
…おまえひとりではどうにもならない
<0650>あたしも強くなる。
…鈴…
<0663>僕たちの心はもう結束してるんだよ、恭介。
…そうか…
…けどもう世界はないぜ?
<0678>大丈夫だよ。
<0684>世界は鈴と僕で作る。
<0686>いこう、鈴。
<0688>ちりん、と音がした。
<0690>同時に波紋が広がる。
(to SEEN2602 #Z01 <0730>)
0
SEEN2523 #Z05 修学旅行 後
修学旅行
<0965>目覚めた。
<0966>それはこの世に今、生まれ落ちたような生々しい感覚だった。
<0967>今までいた世界とは違う。
<0968>全身を襲う痛み。
<0969>その感覚だけですべてを実感した。
<0970>これが本当の世界なんだと。
<0971>体を動かす。
<0972>どこが上で下だかもわからない。
<0973>【声】「…りき」
<0974>すぐそばで声がした。鈴の声だ!
<0975>【理樹】「鈴、ここだ、僕はここだよっ」
<0976>必死に伝えた。
<0977>手を伸ばした。
<0978>ぱし。
<0979>それが合わさった。
<0980>温かい…。
<0981>【鈴】「りき…からだがいたい」
<0982>【理樹】「僕もだよ…」
<0983>体を這わせて寄っていって、顔を見た。
<0984>懐かしいような鈴の顔だ。
<0985>鈴の手を取って、そこから這い出した。
<0990>【理樹】「戻ってきたんだよ…」
<0991>【鈴】「うん…」
<0992>ここは修学旅行の途中の道…その崖の下。
<0993>記憶が次々と蘇ってくる。
<0994>あの、バスの中の騒ぎが克明に思い出される。
<0995>バスが何かにぶつかった。
<0996>激しく揺れ、生徒が右から左へ飛ぶ。
<0997>全員がパニック状態。
<0998>そして上下が入れ替わった。
<0999>天井が床になっていた。
<1000>そこで前に座っていた真人の顔が、すぐ正面に現れた。
<1001>僕を庇ってくれたんだ。
<1002>鈴は謙吾に支えられていた。
<1003>それで、ふたりともこうして助かった。
<1004>【理樹】「ふたりが助けてくれたんだ…」
<1005>【鈴】「うん…」
<1006>【理樹】「立てる…?」
<1007>【鈴】「わからない…やってみる…」
<1008>僕は痛む体にむち打ち、立ち上がる。
<1009>どこもかしこも痛い…全身が悲鳴を上げている。
<1010>それから、てこずっていた鈴の肩を抱き上げ、立たせてあげた。
<1011>ふたり人の字のようにもたれ合って立つ。
<1021>その眼前…
<1022>いつか夢の中で見た、絶望の風景だ…。
<1023>それを今現実のものとして突きつけられている…。
<1024>目を逸らしたい…。
<1025>でも、みんながそこに居る。
<1026>助けなきゃ…。
<1035>冷静になる (to <1052>)
<1035>バスの中へ様子を見に行く (to <1099>)
<1035>鈴を連れて逃げる (to SEEN2523 #04 <0313>)
<1052>ひとつ、ふたつ、深呼吸をする。
<1053>僕は、みんなを助けなくてはいけない。
<1057>【鈴】「…どうした?」
<1058>【理樹】「ちょっとだけ、待って」
<1062>せり上がってくる恐怖心を押さえ込む。
<1063>かすかにガソリンのような…燃料の匂いがする。
<1064>このままだと爆発するのは明白だ。
<1065>貴重な時間だけど、冷静になるんだ。
<1066>感情に絡め取られて、いいことなんかこれまでなかった。
<1067>何度も経験してきたことじゃないか。
<1068>それを活かせ。
<1072>【理樹】「みんなを助けるんだ」
<1073>【理樹】「でも、このままじゃ無理だから」
<1074>【理樹】「考えるんだ」
<1075>【理樹】「鈴、僕を信じて」
<1079>【鈴】「…うん」
<1080>【鈴】「だいじょうぶだ、信じてる」
<1082>【鈴】「警察に電話しないといけないじゃないか?」
<1083>【理樹】「機転が利くね」
<1084>【理樹】「ちゃんと説明できるよね?」
<1085>【鈴】「うん」
<1089>鈴は落ち着いて、110番通報をしていた。
<1090>ときどきつっかえたり、困っていた様子もあったが、頑張っている。大丈夫だ。
<1091>いつか、みんなで他人に対する行儀を鈴に教えた記憶とだぶって見えた。
<1092>それが何だったかはもう思い出せないけど、それは無駄じゃなかったんだ、と思えた。
<1093>さて、僕は僕のやるべきことがある。
<1095>枝を折る (to <1149>)
<1095>救出に向かう (to <1209>)
<1099>とにかく、みんなを助けないと…!!
<1100>僕は傷む身体に鞭打って、バスの様子を見に行く。
<1102>…ひどい惨状だ。
<1103>【理樹】(どうしたらいいんだ…!?)
<1104>その状況を見て、さらに気が動転してしまう。
<1105>【理樹】(どうしよう…どうしよう…!!)
<1106>考えなんてまとまらない!!
<1108>ひとまずそこから離れて、息を落ち着かせることにした…。
(to <1052> & Time+1)
<1149>痛む全身を堪えながら、太そうな枝に飛びついた。
<1150>そのまま体重をかけて、根元から折る。
<1151>そして、もう一本。
<1155>【鈴】「なにやってんだ?」
<1156>電話を終えたのだろう。鈴がそばまで寄ってきた。
<1157>【理樹】「すぐわかるよ」
<1161>小枝を打ち払い、一本の棒に仕立てる。
<1163>上着を脱いで、ボタンを留める。
<1164>二本の棒に袖を通し、裾から出す。
<1165>裾をひっくり返し、袖にかぶせて強度を持たせる。
<1166>上着がもう何枚か必要だ。
<1167>散らばった荷物からパーカーを借りて、同じように棒にかぶせた。
<1168>さらにもう一枚。
<1169>【理樹】「よし、できた」
<1170>【理樹】「鈴、そっち持って!」
<1171>この形を見ればもう何だかわかるだろう。
<1175>鈴がちりん、と頷き正面に回った。
<1179>僕らはバスからクラスメイトを、二本の棒…即席の担架に乗せて運び出した。
<1186>バスは、フロントバンパーのところが最も酷く壊れていた。
<1187>幸いにも客室内はそれほど壊れてなく、フロントガラスから中に入ることができた。
<1188>ただ、横倒しの車体なので、中を移動するのが難しい。運転席が天井となっている。
<1189>運転席は潰れてしまって、奥の様子はわからない。
<1190>割れたガラスで怪我しないよう、ひとりずつ抱えて、外へと出していく。
<1197>担架に乗せ、全速力で離れた場所へと寝かせ、また戻る。
<1204>ふと、何かを引きずった跡を地面に見つけた。
(to <1249>)
<1209>そうだ、とにかくみんなを中から出さないと。
<1210>余計なことをしている場合じゃない、と判断し、バスへ向かった。
<1217>窓から、ひとりの生徒を引きずり出す。
<1218>【理樹】(くそっ…)
<1219>動けない人って、なんて重いんだ…!!
<1220>肩に抱えて、遠くまで連れて行く。
<1221>【理樹】「はぁっ、はぁっ…」
<1222>膝なんてついてる場合じゃない。
<1223>けれど、身体はすぐに疲労してしまう。
<1227>【鈴】「りきっ、早くっ」
<1228>遠くから鈴の声が届く。
<1232>【理樹】「うんっ…」
<1233>…こんなに時間がかかるなんて…
<1234>僕は思慮が足りていなかったことを悔いる。
<1235>そうだ、枝を使って…。
(to <1149> & Time+1)
<1249>草は倒れ、黒ずんだ血で染まっていた。
<1250>それは横倒しになったバスの底面へと続いていた。
<1251>辺りには燃料が漏れているのか油の匂いが漂い、まだ熱いエンジンを避けながら覗き込むと…
<1261>【理樹】「恭介!」
<1262>そこに恭介が居た。
<1278>【恭介】「理不尽だ…なぜてめぇらだけ旅行で、俺だけ居残りなんだよぉぉ!」
<1279>【理樹】「それは恭介が三年生で、一年前に行ってるし、目下就職活動中だからだよ」
<1284>【謙吾】「どっちかというと、完全におまえのほうが理不尽だぞ」
<1289>【真人】「でもこいつの行動原理に言わせると、行かないわけにはいかないんだろうな」
<1294>【恭介】「当然だ…修学旅行なんて楽しいことだらけじゃねぇか!」
<1299>【鈴】「子供か、おまえは」
<1304>恭介も乗り込んでいたんだ。
<1305>絶対どこかに隠れ潜んでいる…僕らはそう話し合いながらバスに乗っていたんだ。
<1314>そして今、白いシャツを鮮血に染め、バスの底、その中央部にもたれかかっていた。
<1315>なんてことだ…あんなに接して、熱いだろうに…。
<1316>僕は急いで駆け寄る。
<1317>【理樹】「大丈夫!?」
<1318>体を揺するも返事はない!
<1319>胸に耳を当てると、弱々しく不揃いだが…鼓動はわずかに聞こえる。
<1320>助けよう…背中に手を回したところで気づく。
<1321>その背面、接したバスの底から油が染みだし、地面を濡らしていた。
<1324>後回しにする (to <1330>)
<1324>すぐ助ける (to <1346>)
<1330>恭介は、バスの底に空いた穴をふさいでいるんだ。
<1331>僕は、腕を抜いて、その体を離した。
<1332>恭介は今もなお、こんな体でも…みんなを守り続けているんだ。
<1333>その思いに応えるためにも、恭介は後回しにしてクラスメイトを助けなくちゃならない…!
<1338>僕は自分のシャツを切り裂いて、切れた額を覆うように縛った。
<1339>【理樹】「恭介…絶対助けるから、待ってて」
(to <1400>)
<1346>【理樹】「恭介っ!!」
<1347>感情に任せて、恭介に手を伸ばす。
<1354>…僕は、忘れていた。
<1355>恭介が、なぜそこで…。
<1356>その場所に、いなければならなかったのか。
<1357>恭介は、守っていたんだ。
<1358>灼熱から、僕たちを。
<1362>…風が、吹いた。
<1371>そして、視界は白くなり…。
<1372>………。
<1373>……。
<1374>…。
(END)
<1400>やっとバスの最後尾に着いた。
<1401>ぐったりとして倒れているのは真人と謙吾。
<1402>まずは上に乗っかっている謙吾を引っ張り出す。
<1403>握力がなく、指を開くのに苦労する。
<1404>過呼吸で全身が酸素を欲しがっている。
<1405>今すぐ座り込んで、そのまま倒れてしまいたいほどの疲労。
<1406>そのすべてを奥歯で噛み潰し、気合いとともに謙吾を担ぐ。
<1407>【理樹】「うぁっ…」
<1408>反動で、背中をシートで打ってしまった。
<1409>が、必死に堪える。
<1410>時間がないんだ。
<1411>進め。
<1412>一歩ずつ。
<1413>可能な限りの速度で。
<1414>みんなを助けるって、決めたんだから。
<1421>何度目の往復になるだろうか…。
<1422>もう数え切れない…。
<1430>バスの中から、最後の人を助け出す。
<1431>【理樹】「…重いよ、こんなに無駄に筋肉つけて」
<1432>気を失っている真人は答えない。
<1433>何となくだけど苦笑が出た。
<1434>僕より大きな体を必死に抱え、一歩ずづバスの外へ出る。
<1438>【鈴】「担架にのせるか?」
<1439>【理樹】「いや…、真人は大きすぎるからさ」
<1440>【理樹】「このまま運んでいくよ」
<1441>【理樹】「鈴、バスの中から持ってきて欲しいんだけど」
<1443>荷物を調べてもらう (If Time<2, to <1483>; If Time=2, to <1458>)
<1443>シートを取り外してもらう (to <1505>)
<1458>【理樹】「!?」
<1459>後部座席のほうから火柱が上がっている!!
<1466>引火したら終わりだ…もう時間がない…!!
<1472>【鈴】「えらいことになってるぞ、どうするんだ、理樹っ」
<1473>【理樹】「荷物を調べてほしいんだっ」
<1474>【理樹】「なんでもいいから、集めておいて」
<1478>意味が通じたかはわからないが、鈴は頷いて、走っていた。
(to <1542>)
<1483>【理樹】「荷物を調べてくれないかな…」
<1484>【理樹】「みんな、怪我してるから、添木になるものや、止血できそうな布」
<1485>【理樹】「何でもいいから、集めておいて」
<1489>ちりん、とひとつ頷き、走っていった。
<1493>鈴は、先に意識を取り戻した比較的軽傷な同級生たちを叱咤激励し、荷物から取り出したタオルやシャツで治療を始めた。
<1494>てきぱきと調べ、集めては女生徒のひとりに止血させている。
<1495>不安そうな顔もするけど、がんばって考えて、次の行動に移る。
<1496>時には相談して、指示を仰ぐ。
<1497>昔では考えられないほど頼もしい姿だ。
(to <1542>)
<1505>【理樹】「シートを取り外して」
<1506>【理樹】「…ベッド代わりになるはずだから」
<1510>【鈴】「わかった」
<1514>中に向かう。
<1515>…けれど、シートはなかなか簡単には外れない。
<1516>怪我をしている人たちのために必要と、僕は判断した。
<1517>…けれど、そんなものよりもっと必要なものはいっぱいあった。
<1518>考えを改める。
<1519>【理樹】「ごめん、鈴」
(If Time=0, to <1483>, If Time>=1, to <1458>; & Time+1)
<1542>真人を少し離れた草むらに寝かせる。
<1543>これでバスの中に居た全員を避難させた。
<1544>後は、最後に残された恭介だけだ。
(If Time<2, to <1557>;If Time>=2, to <1563>)
<1557>ようやくその目の前に戻ってくる。
(If Time=0, to <1566>; If Time=1, to <1624>; If Time=2, to <1577>)
<1563>ようやくその目の前に戻ってくる。
(to <1577>)
<1566>恭介を助ける (to <1651>)
<1566>何かを考える (to <1712>)
<1577>だが、手遅れだったみたいだ。
<1591>もう何も見えない。
<1592>すべては消し飛んだんだ。
<1593>僕も…恭介も…。
(END)
<1624>【理樹】「!?」
<1625>後部座席のほうから火柱が上がっている!!
<1632>引火したら終わりだ…もう時間がない…!!
<1643>恭介を助ける (to <1651>)
<1643>何かを考える (to <1712>)
<1651>【理樹】「恭介っ!!」
<1652>感情に任せて、恭介に手を伸ばす。
<1653>…僕は、忘れていた。
<1654>恭介が、なぜそこで…。
<1655>その場所に、いなければならなかったのか。
<1656>恭介は、守っていたんだ。
<1657>灼熱から、僕たちを。
<1667>…風が、吹いた。
<1677>そして、視界は白くなり…。
<1678>………。
<1679>……。
<1680>…。
(END)
<1712>そうだ…!
<1713>恭介は、爆発を防ぐために、身を挺しているんじゃないか。
<1714>…ならば、代わりになるもので埋めなければ!
<1715>【理樹】(埋めるもの…!?)
<1716>上着は、さっき担架を作るときに使ってしまった。
<1717>なんでもいい、僕たちが逃げおおせるまでの間、もてばいい…。
<1718>傍らを見る。
<1719>…女子の制服の上着が、ガラスまみれで落ちていた。
<1720>ひとまず、これでいいっ!
<1721>恭介をどかし、穴を塞ぐように、それを詰め込む。
(If Time=0, to <1730>; If Time=1, to <1723>)
<1723>これで問題はないはずだ!
(to <1744>)
<1730>【理樹】「!?」
<1731>後部座席のほうから火柱が上がっている!!
<1738>引火したら終わりだ…もう時間がない…!!
<1742>これで問題はないはずだ!
<1744>恭介を助ける (If Time=0, to <1894>; If Time=1, to <1831>)
<1744>さらに考える (to <1768>)
<1768>【理樹】(まだなにか、やりのこしたことは…)
<1769>恭介を肩に抱えて、立ち止まる。
<1770>…そんなこと、してる場合じゃない。
<1771>頭の中に声が響いた、気がした。
<1773>【理樹】「あ…」
<1777>僕の目の前で、塞いでいた上着が吹き飛ぶ。
<1778>…耳に、声が聞こえる。
<1788>鈴の声だろうか。
<1796>だめだ。
<1797>もう、遅かった。
<1798>鈴だけでも…。
<1799>ここから…。
(END)
<1831>もう、だめだ。早く、逃げろ。
<1832>頭の中に声が響いた、気がした。
<1834>【理樹】「あ…」
<1835>…耳に、声が聞こえる。
<1845>鈴の声だろうか。
<1855>だめだ。
<1856>もう、遅かった。
<1857>鈴だけでも…。
<1858>ここから…。
(END)
<1894>【理樹】「ありがとう、恭介…」
<1895>【理樹】「みんな無事だ…」
<1896>【理樹】「恭介の…おかげだよ…」
<1897>呼吸も覚束ない…。
<1898>僕にはまだ力が残っているのか…。
<1899>それすら怪しい…。
<1900>けど…。
<1901>【理樹】「最後は恭介の番だ…」
<1902>【理樹】「いこう」
<1908>恭介を抱きしめ…一気に持ち上げる。
<1915>上着で塞いでいた燃料タンクから、大量の軽油が一気に噴出する。
<1916>…あの程度じゃ、長くもつわけはなかった。
<1917>【理樹】「鈴! 手を貸して!」
<1921>【鈴】「っ!?」
<1925>【理樹】「早くっ」
<1926>慌てて駆けつけた鈴が、恭介を反対側から肩で背負う。
<1927>【理樹】「急いで離れるんだ! 爆発する!」
<1931>【鈴】「うん!」
<1935>後ろは振り返らない。
<1936>ただまっすぐ…
<1940>ひたすらまっすぐに…
<1950>世界が白く染まった。
<1951>轟音が熱風と共に襲いかかる。
<1952>とっさに身を翻し、鈴と恭介を庇う。
<1953>毛先を焼く臭いが鼻腔を刺し、一瞬息が出来なくなる。
<1954>爆風で吹き飛ばされながら、僕は二人の体を離さなかった。
<1955>もう、二度と離れない。
<1956>大丈夫だよ、もう。
…理樹…
…おまえはすごいな…
…おまえは奇跡を起こしたんだ…
…俺にだってこんなことはできやしない…
…誇りに思えるぜ…
…おまえという親友(とも)を。
(to SEEN2603 #Z00 <0014>)
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SEEN2523 #Z07 Episode:理樹
Episode:理樹
<0732>僕は…どこまでいこう?
<0733>僕自身のことだ。どこまでだって遡れる。
<0745>【真人】「すげぇな…鈴まで一緒だぜ」
<0749>【真人】「ちっ、謙吾は余計だ…」
<0750>【理樹】「恭介以外揃ったんだね…」
<0754>【真人】「理樹、よかったな。俺も一緒だぜ」
<0755>【理樹】「ルームメイトだけでも十分だったんだけど…」
<0756>これは…春だ。
<0757>クラス替えの発表だ。
<0758>まだまだこんなところには僕の弱さはない。
<0759>さらに還ろう。
<0771>【理樹】「ま、待ってよ、はやいよっ」
<0772>【少年】「ばかっ、敵は待ってなんてくれねぇんだぞっ」
<0773>【少年】「わーーーはっはっは! リトルバスターズ参上だ!」
<0774>【少年】「まだ参上しとらん」
<0775>【少年】「………」
<0776>これは…最初のリトルバスターズ。
<0777>この町を5人で駆け回っていた時だ。
<0778>痛快な日々。
<0779>僕は傷心の身でいたはずだ。
<0780>でもそれは癒えてなかったんだ。
<0781>忘れていただけ。
<0782>まだまだ遠くにある気がする。
<0783>いこう。
<0792>大きな体がふたつ…横たわっている…。
<0793>手に触れてみた。
<0794>冷たかった。
<0795>どうしてこんなに冷たいの?
<0796>わからない…。
<0797>誰かが僕の肩を抱きしめる。
<0798>ああ、そうか…。
<0799>僕はショックを受けているんだ。
<0800>だから、見知らぬ誰かに慰められているんだ。
<0801>それは、その日から見続けてきた僕の『夢』だ。
<0802>そして。
<0807>僕は夢の中で眠りに落ちた。
<0812>そうか、これが始まりだ。
<0813>僕は知りたくなかったんだ。
<0814>生きることが、失うことだったなんて。
<0815>そこで、歩みを、止めた。
<0816>落ちる…。
<0817>さらに落ちてゆく…。
<0820>………。
<0821>……。
<0822>…。
<0830>ああ…
<0831>僕はまだ生まれてもいない。
<0832>まだ世界を知らない。
<0833>生きることもしらない。
<0834>でもこの先、僕は失うことを知っている。
<0835>それが生きることだ。
<0836>なんてつらいことだ。生きることとは。
<0837>だったら、生まれなくていいじゃないか。
<0838>ここは居心地がいい。
<0839>あたたかい…。
<0840>ずっとこのままここにいたい。
<0841>ひとりになりたくないんだ。
<0842>こわいんです。
<0843>つらいのはいやだ。
<0844>かこくなのはいやだ。
<0845>ああ…どうか、ずっとこのぬくもりの中にいさせてください。
<0850>………。
<0851>だれだ…きみは。
<0852>だれかがいる。
<0853>うまれてもいない、ぼくのきおくの中にだれかがいる。
<0854>きみはだれだい?
<0858>………。
<0859>むくちな子だね。
<0860>………。
<0861>どうしてだろう…。
<0862>ぼくは、きみとであいたい。
<0863>そうかんじる。
<0864>このかんじょうはなに?
<0865>いつかなにもかもがうしなわれるのに。
<0866>ぼくは、きみとであいたい。
<0867>このしょうどうはなに?
<0868>…ほかにもたくさんのかおがうかんでくる。
<0912>きみたちはだれ?
<0913>でも、そこもあたたかだ。
<0914>とてもいごこちがよさそうだ。
<0915>でも、であってしまったら、いつかうしなう。
<0916>それはこわい。
<0917>なのに、そうしたい、このしょうどうはなんだろう…。
<0918>ああ…そうか…
<0919>それは…ぼくが…
<0920>うしなうことより、であうことのほうがたいせつだと…しったからだ。
<0921>うしなえばかなしい、つらい。
<0922>でも、それをおそれて、であわないより…
<0923>ひととであい、いっしょにすごすじかんのほうが…
<0924>たいせつで、かけがえのないものだってことをしっている。
<0925>おそれてばかりではだめだ…
<0926>うしなうのは、もちろんかなしいけど…
<0927>たくさんのであいがまってくれている。
<0928>たくさんのかけがえのないじかんが、まってくれている。
<0929>そして、いつか、みんなにつたえよう。
<0930>うまれることはすばらしいよ、って。
<0931>うまれることをおそれているひとたちにつたえよう。
<0932>すばらしいであいがたくさんまってたよって。
<0933>とてもしあわせだったよって。
<0934>ここよりもとおい世界で。
<0935>だから…
<0936>ぼくは、いま生をうけいれる。
<0937>うまれよう。
<0938>あらたな世界へ。
<0942>………。
<0943>……。
<0944>…。
(to SEEN2523 #Z05 <0965>)
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SEEN2602 #Z00 最後のゆめ
最後のゆめ
<0020>【鈴】「………」
<0021>立っていた。
<0022>どこだかわからない場所に立っている、ということだけわかった。
<0023>とても静かな場所だ。
<0024>何も聞こえない。
<0025>辺りもよく見えない。
<0026>そんな場所に、あたしひとりだった。
<0027>【鈴】「理樹…?」
<0028>…あたしは手を引かれていたはずだった。
<0029>よくわからん。
<0030>少し、戸惑う。
<0031>けど、目を凝らして、足を踏み出してみた。
<0045>…テーブルの上に、ノートを見つけた。
<0046>これを、知ってる気がする。
<0047>何か、懐かしい気がする。
<0048>…手にとって、中を見た。
<0049>絵本みたいなのと、かわいい絵が描いてあった。
<0050>8人の小人と、おとこのことおんなのこのお話。
<0051>小人たちはみんな、何か悩みを抱えていた。
<0052>おんなのこはその小人たちと仲良くなる。
<0053>おとこのこは、その小人たちの悩みを、がんばってひとつずつなくしていく。
<0054>悩みのなくなった小人たちは、ひとりずつ…。
<0055>森を、去っていく。
<0056>【鈴】「………!!」
<0062>【小毬】「これはまだ、途中だから…」
<0063>【鈴】「じゃあ、出来たら見せてくれ」
<0070>【鈴】「…これ、わりとすきだ」
<0071>【小毬】「うん、じゃあ出来たら見せるよ~」
<0076>…わすれてた。
<0077>とても大切な何かを、忘れていた。
<0078>不意に、ノートから一枚の紙切れが落ちた。
<0083>…小毬ちゃんが持ってた、河原で撮った、みんなの写真。
<0084>なかよしだったのに。
<0085>ともだちだったのに。
<0090>どうしてあたしは、忘れていたんだろう。
<0091>みんないない事に、どうして気付かなかったんだろう。
<0096>【鈴】「………」
<0097>いない。
<0098>どうして、それだけわかってしまうんだろう。
<0099>もう、かなしいことがいっぱいあったのに。
<0111>【鈴】「何を読んでるんだ」
<0112>【美魚】「これは短歌集ですよ」
<0113>【鈴】「それはたのしいのか?」
<0114>【美魚】「楽しい…というわけではありませんが」
<0115>【美魚】「そうですね。例えば…」
<0122>【美魚】「どう感じましたか」
<0123>【鈴】「よくわからん」
<0124>【美魚】「…そうですか」
<0125>【鈴】「よくわからんが、なにかきれいな感じはするな」
<0126>【美魚】「…棗さんらしいですね」
<0127>【鈴】「だめなのか…」
<0128>【美魚】「いえ…」
<0129>【美魚】「とても、いいと思いますよ」
<0136>【鈴】「みおっ!!」
<0137>…いない。
<0145>【葉留佳】「鈴ちゃん鈴ちゃーーーーんっ」
<0146>【鈴】「うっさいぞ」
<0147>【葉留佳】「うっ、開口一番鬼ひどーっ!?」
<0148>【鈴】「はるかはうるさい」
<0149>【葉留佳】「そりゃー私はそれがアイデンティティですからネ」
<0156>【葉留佳】「んでさー、それがちょー可愛かったんですヨ」
<0157>【鈴】「………」
<0158>【葉留佳】「ん?」
<0159>【鈴】「ほんとにうっさい」
<0160>【葉留佳】「ええー、うっさいほうが楽しいじゃん」
<0161>【葉留佳】「たのしー事はたのしそーにしてたほうがもっと楽しくなるんですヨ」
<0162>【鈴】「…よくわからん」
<0163>【葉留佳】「というわけで、すまーいる」
<0164>【鈴】「はほへーっ!!」
<0165>【葉留佳】「あははははっ、ほっぺぐにぐに~」
<0173>【鈴】「はるかっ!!」
<0174>…いない。
<0183>【鈴】「くるがやはよーわからんことをしてるな」
<0184>【来ヶ谷】「そうか? 割と楽しいぞ」
<0185>【来ヶ谷】「まあ、鈴君もせっかくだから何かマイクに喋っていくといい」
<0186>【鈴】「いやじゃー、ぼけーっ」
<0187>【来ヶ谷】「ほう、おねーさんに逆らうとはこしゃくな鈴君だな」
<0188>【鈴】「うう…わかったからふにふにするのをやめろ…」
<0189>【来ヶ谷】「うむ、これが原稿だ」
<0190>【鈴】「…あー、ごほん、本日はお日柄もよく…」
<0191>【来ヶ谷】「そこは別に必要ないがな」
<0198>【来ヶ谷】「…出来るじゃないか」
<0199>【鈴】「いまのでいいのか」
<0200>【来ヶ谷】「うむ…鈴君に足りないのは積極性だな」
<0201>【鈴】「せっきょくせい?」
<0202>【来ヶ谷】「キミに出来ることは思いの外に多い。すべからく前向きであるべし、だ」
<0210>【鈴】「くるがや…っ!!」
<0211>…いない。
<0219>【鈴】「しゅーじなんかするのか」
<0220>【クド】「はい、とても落ち着きます。よかったら鈴さんもやってみませんかっ」
<0221>【鈴】「あたしはやらん。見てる」
<0222>【クド】「そうですか…」
<0223>【鈴】「見てるほうが楽しい」
<0224>【クド】「わかりましたっ。楽しんでくださいっ」
<0231>【クド】「できました! 『和』ですっ!」
<0232>【鈴】「クドはその字が好きなのか?」
<0233>【クド】「はい。『和』は日本を表したりもします。私は今住んでいる、みなさんのいるこの国が大好きです」
<0234>【クド】「それに、『和む』という意味もあります。穏やかで落ち着く感じがする、とてもいい字なのです」
<0235>【クド】「つまりですね、和むというのは、大好きなものがあるときなのですっ」
<0236>【鈴】「…あたしはクドといると和む」
<0237>【クド】「はいっ、私も鈴さんと一緒だと和みまくりですっ」
<0245>【鈴】「くど…っ」
<0246>…だれも、いない。
<0253>みんな、いない。
<0254>いたはずなんだ。
<0255>【鈴】「はぁっ…はぁっ…」
<0256>わかりかけてきた。
<0257>みんなここにいないってことは。
<0258>…もう、どこにもいないんだ。
<0265>階段を駆け上がる。
<0272>…屋上へと続く路。
<0273>【鈴】「………」
<0274>そこは、机や椅子、ガラクタで塞がれていた。
<0275>前はこんなの、なかった。
<0276>この奥に…。
<0285>【小毬】「ここは私の一番好きな場所なんだよ~」
<0286>【鈴】「………」
<0287>【小毬】「でも、ここはほんとは出ちゃいけないところだから」
<0288>【小毬】「出てるのは、秘密なのです」
<0289>【鈴】「…秘密」
<0290>【小毬】「うん、秘密」
<0291>【鈴】「じゃあ、あたしとこまりちゃんしか知らないのか?」
<0292>【小毬】「ううん、前に理樹君もここに来ちゃったことがあったよ」
<0293>【小毬】「…でも、私から教えたのは、りんちゃんがはじめてかな」
<0294>【鈴】「なんであたしには教えてくれるんだ」
<0295>【小毬】「ふえ? …うーん…」
<0303>…がらくたを、どかす。
<0304>【鈴】「…うぅ…」
<0305>ともだちなんて、出来ないと思ってた。
<0306>理樹や恭介、真人に謙吾がいれば、それでいいと思ってた。
<0307>…けど。
<0308>あたしは馬鹿だった。
<0315>【小毬】「…一番のなかよしさんだから、かな」
<0316>【小毬】「りんちゃんと私、お友達だから」
<0317>【鈴】「…ともだち」
<0318>【小毬】「うんっ」
<0319>【鈴】「よくわからん…」
<0320>【鈴】「あたし、女の子のともだちなんていなかったし…」
<0321>【小毬】「…でも、もうわかるよね」
<0322>【鈴】「………?」
<0323>【小毬】「今のりんちゃん、友達がいっぱいいるから」
<0331>ともだち、いっぱい出来てた。
<0332>気付かなかった。
<0333>ともだちがいっぱいいれば、とても楽しいって、あたしはそれに気付かなかった。
<0334>あたしはきっと、それをこれから、なくす。
<0335>…出来たから楽しかったって事も、なくしてしまうことが悲しいってことも、何も知らなかった。
<0336>【鈴】「うーっ…」
<0337>こらえながら、がらくたをどかす。
<0338>【鈴】「はぁ、はぁ…」
<0339>…どかす。
<0340>そして、あたしは、窓から外に出た。
<0350>夕焼け。
<0351>この高い場所からは、ずっと遠くに沈んでいく太陽が見える。
<0352>【鈴】「………」
<0353>見える街並みも、茜色。
<0354>足元も、茜色。
<0355>それに照らされるあたしもきっと、茜色。
<0356>思い出す。
<0357>小さい頃、夕焼けは、終わりの合図だった。
<0358>太陽が沈む前に、みんな家に帰ってしまう。
<0359>どれだけ楽しい遊びをしてても、夕焼けで、終わり。
<0360>そのとき、あたしはどんな事を思っていただろう。
<0361>そんな答え、今になってあたしは知りたくないし…そんな風に思ったことを、また思い出したくなかった。
<0362>それは、寂しいってことだった。
<0370>どうして、日は沈んでしまうんだろう?
<0371>ずっと青空なら、こんな思いもしなくてすむのに…。
<0372>あたしはきっと、そう思っていた。
<0373>【鈴】「………」
<0374>足元に、あたしの影が、長く伸びる。
<0375>その斜め向こうに…こまりちゃんが、いた。
<0390>【小毬】「…りんちゃん」
<0393>【鈴】「…こまり、ちゃん」
<0394>こまりちゃんは、そこにいた。
<0395>けれど、何もいえない。
<0396>こまりちゃんも、何もいわない。
<0397>…夕日が、どんどん沈んでいく。
<0398>…終わっちゃう。
<0399>【鈴】「こ、こまり…ちゃん…」
<0400>搾り出すような、情けない声しか出なかった。
<0401>みんな消えてなくなってしまったんだ。
<0402>…ここにいるのは、あたしと小毬ちゃんだけなんだ。
<0406>【小毬】「…ごめんね、りんちゃん」
<0407>こまりちゃんが口を開いた。
<0411>違う。
<0412>きっと、謝らなきゃいけないのはあたしの方なんだ。
<0413>あったこと、全部忘れてた、あたしが悪かったんだ。
<0414>…でも、口が動かなかった。
<0418>【小毬】「…もう、全部知ってるのかな」
<0419>【鈴】「………」
<0420>ぶんぶんと横に首を振る。
<0421>…何もあたしは知らない。
<0425>【小毬】「うん…」
<0429>【小毬】「知っておいて欲しいことなんだ」
<0430>【小毬】「…きっと、りんちゃんも知らなきゃいけないことなんだ」
<0431>それはきっと、本当に知りたくもないことなんだろう。
<0435>【小毬】「みんなね、もういないんだ」
<0436>【小毬】「たぶん、どこにもいなくなっちゃうんだ」
<0437>【鈴】「………」
<0441>恭介の言葉を思い出した。
<0442>何かが起こった世界。
<0443>…ここは、偽物で…。
<0444>本物には、もうみんないなくて…。
<0445>偽者は、もう壊れてしまっていて…。
<0446>【鈴】「こまり…ちゃんは…?」
<0450>【小毬】「…うん…」
<0451>【小毬】「私もなんだ」
<0455>【小毬】「本当はもう、ずっと前にいなくならなきゃいけなかったんだけど」
<0456>【小毬】「私のわがままで、ここに残ってただけだから…」
<0457>夕焼けに照らされながら、こまりちゃんは続ける。
<0461>【小毬】「だから、ここにいるのも、悪い事なんだ」
<0462>【鈴】「それは…」
<0463>【鈴】「こまりちゃんに、もう会えないっていうことか…?」
<0464>あたしがそう聞くと。
<0468>こまりちゃんは、ほんの少し困ったように、笑った。
<0469>こまりちゃんがそうするとき、それがどういうことなのか、あたしは知っていた。
<0470>本当だってことだ。
<0474>【鈴】「いやだ…」
<0489>【鈴】「こまりちゃんの星は何でつけてるんだ?」
<0494>【小毬】「ふえ?」
<0499>【小毬】「これはね、願い星なんだよ」
<0500>【鈴】「ねがいぼし?」
<0505>【小毬】「うん」
<0506>【小毬】「お願い事があってね」
<0511>【小毬】「叶いますようにって、ずっと昔からつけてるんだ」
<0517>【鈴】「そんなのいやだ…」
<0524>【鈴】「ふたつもおねがいしたのか」
<0525>【小毬】「ふえ? う、うーん…そういえば、ふたつあるね」
<0526>【小毬】「じゃあ、もう一個はりんちゃんのためのお願い事にするよ」
<0527>【鈴】「こまりちゃんがつけてるのに、あたしのお願いなのか?」
<0528>【小毬】「私がりんちゃんのお願いをお願いすれば、だいじょうぶだよ~」
<0529>【鈴】「じゃあこまりちゃん、考えといてくれ」
<0530>【小毬】「ふええっ、わ、私っ!?」
<0531>【鈴】「こまりちゃんのお願いならなんでもいい」
<0532>【小毬】「う、うーん…わかったよ、考えてみるよ」
<0538>…そんなことだって、あったんだ。
<0543>【鈴】「いやだ…!!」
<0544>【鈴】「みんな会えないなんていやだっ!!」
<0545>【鈴】「恭介がいないのだっていやだっ!! 真人も謙吾もいないのなんていやだっ!!」
<0546>【鈴】「はるかもみおもクドもくるがやも…っ!!」
<0547>【鈴】「誰かひとりいなくたっていやだっ!!」
<0548>【鈴】「みんないなきゃいやなんだっ…」
<0553>【鈴】「いやだよぅ…」
<0554>【鈴】「こまりちゃぁん…」
<0555>とまらなかった。
<0556>…なにも、とまらなかった。
<0557>【小毬】「…りんちゃん」
<0562>【小毬】「りんちゃんは、泣き虫だなあ…」
<0563>【鈴】「泣き虫なのは…こまりちゃんだっ…」
<0564>【小毬】「…でもね、私笑ってるよ」
<0565>【小毬】「教えてくれた人がいるから」
<0566>【小毬】「悲しいことがあっても、最後にまた、笑ってるってこと」
<0567>【小毬】「…だからね、同じこと、すごいこと」
<0568>【小毬】「…私にも、出来るかなって…」
…理樹君。
私きっと、最後まで笑ってるよ。
すごいこと、できたかな…。
りんちゃん、私みたいになったりしないかな…?
本当は、もっと、みんなで…。
ずっと一緒にいられたら、それが一番いいことなんだろうね。
でも…。
出来ないから…。
もう、物語は終わっちゃうから…。
<0596>【小毬】「りんちゃんにも、そうなってほしんだ」
<0597>【小毬】「だから、りんちゃんとも…」
<0598>【小毬】「笑って、お別れ」
…ゆうひが、しずんでく。
いちばんぼしが、ひかりはじめるころ。
もうすぐ、おわかれのじかん。
<0619>【小毬】「…お願い事、ひとつ」
<0620>【小毬】「りんちゃんも、ちゃんと笑っていられますように」
<0628>こまりちゃんの髪飾り。
<0629>あたしは小毬ちゃんの手のそれに、手を伸ばす。
<0630>【小毬】「………」
<0631>…もう、何も聞こえない。
<0632>こまりちゃんも、この場所も、白く、白く霞んでいく。
<0633>いわなくちゃいけない。
<0634>…ごめんね。
<0635>あたしはまだ、あやまってない。
<0636>でも…。
<0641>髪飾りは、こまりちゃんの手をすり抜けて…。
<0642>それは、流れ星みたいで…。
<0643>そのちっちゃな流れ星が、
<0644>コンクリートにひとつ、
<0645>…小さな、音を立てた。
<0656>【鈴】「…こまりちゃん」
<0657>【小毬】「うん?」
<0658>【鈴】「あたし、こまりちゃん、好きだ」
<0659>【鈴】「チームのみんな、好きだ」
<0660>【小毬】「えへへ、あたしもりんちゃん好きだよー」
<0661>【小毬】「じゃあ、ずっと友達だね」
ごめんね りんちゃん。
わたし ずっといっしょにいられなかった。
もう、あえなくなっちゃうから…。
さよなら。
…だいすきな、りんちゃん。
(to SEEN2523 #Z04 <0327>)
0
SEEN2602 #Z01 Episode:鈴
Episode:鈴
<0730>【鈴】「………」
<0731>【鈴】「がっこー…?」
<0732>なんでこんなところに戻って来たんだ。
<0733>考えたってわかりそうにない。
<0734>きっとここにいるってことは、ここに何かあるんだろう。
<0735>もう一度、踏み出そうとした。
<0736>靴が、土を踏む。
<0737>【鈴】「………」
<0738>なんだろう。
<0739>もやもやして、やっぱりよくわからん。
<0740>また一歩、土を踏んだ。
<0750>…テーブルの上に、ノートを見つけた。
<0751>これを、知ってる気がする。
<0752>何か、懐かしい気がする。
<0753>…手にとって、中を見た。
<0754>絵本みたいなのと、かわいい絵が描いてあった。
<0755>8人の小人と、おとこのことおんなのこのお話。
<0756>小人たちはみんな、何か悩みを抱えていた。
<0757>おんなのこはその小人たちと仲良くなる。
<0758>おとこのこは、その小人たちの悩みを、がんばってひとつずつなくしていく。
<0765>みんな、いた。
<0766>あったんだ。
<0767>いっぱい、あったんだ。
<0768>わすれてたんじゃない。
<0769>あたし、捨ててた。
<0770>全部全部、いやなことがあるから、捨ててた。
<0771>むかし、怖いことがあった。
<0772>大きい人。暗い部屋。叫び声。
<0773>ずっとずっと、怖いことだらけだと思っていた。
<0774>それで、閉じこもってた。
<0779>…なくしものを、みつけにいこう。
<0786>【鈴】「それはたのしいのか?」
<0787>【美魚】「楽しい…というわけではありませんが」
<0788>【美魚】「そうですね。例えば…」
<0795>【美魚】「どう感じましたか」
<0796>【鈴】「よくわからん」
<0797>【美魚】「…そうですか」
<0798>【鈴】「よくわからんが、なにかきれいな感じはするな」
<0799>【美魚】「…棗さんらしいですね」
<0800>【鈴】「だめなのか…」
<0801>【美魚】「いえ…」
<0802>【美魚】「とても、いいと思いますよ」
<0809>全部あった。
<0810>みんないた。
<0811>あたしは、それをおぼえてる。
<0819>【葉留佳】「鈴ちゃん鈴ちゃーーーーんっ」
<0820>【鈴】「うっさいぞ」
<0821>【葉留佳】「うっ、開口一番鬼ひどーっ!?」
<0822>【鈴】「はるかはうるさい」
<0823>【葉留佳】「そりゃー私はそれがアイデンティティですからネ」
<0830>【葉留佳】「んでさー、それがちょー可愛かったんですヨ」
<0831>【鈴】「………」
<0832>【葉留佳】「ん?」
<0833>【鈴】「ほんとにうっさい」
<0834>【葉留佳】「ええー、うっさいほうが楽しいじゃん」
<0835>【葉留佳】「たのしー事はたのしそーにしてたほうがもっと楽しくなるんですヨ」
<0836>【鈴】「…よくわからん」
<0837>【葉留佳】「というわけで、すまーいる」
<0838>【鈴】「はほへーっ!!」
<0839>【葉留佳】「あははははっ、ほっぺぐにぐに~」
<0847>あの時は、楽しかった。
<0848>楽しかったのに。
<0849>今思い出すと、とても悲しくなるのはなんでだろう。
<0850>いやなこと、悲しいこと。
<0851>だからあたしは捨てたんだ。
<0860>【鈴】「くるがやはよーわからんことをしてるな」
<0861>【来ヶ谷】「そうか? 割と楽しいぞ」
<0862>【来ヶ谷】「まあ、鈴君もせっかくだから何かマイクに喋っていくといい」
<0863>【鈴】「いやじゃー、ぼけーっ」
<0864>【来ヶ谷】「ほう、おねーさんに逆らうとはこしゃくな鈴君だな」
<0865>【鈴】「うう…わかったからふにふにするのをやめろ…」
<0866>【来ヶ谷】「うむ、これが原稿だ」
<0867>【鈴】「…あー、ごほん、本日はお日柄もよく…」
<0868>【来ヶ谷】「そこは別に必要ないがな」
<0875>【来ヶ谷】「…出来るじゃないか」
<0876>【鈴】「いまのでいいのか」
<0877>【来ヶ谷】「うむ…鈴君に足りないのは積極性だな」
<0878>【鈴】「せっきょくせい?」
<0879>【来ヶ谷】「キミに出来ることは思いの外に多い。すべからく前向きであるべし、だ」
<0887>いっぱい楽しかった。
<0888>いっぱい教えてくれた。
<0889>…なのに、あたしはきっと、ひどいことをしたんだ。
<0894>あやまりたい。
<0895>でも、もうみんないない。
<0896>…あやまれない。
<0897>それが、なくすっていうことだった。
<0906>【鈴】「しゅーじなんかするのか」
<0907>【クド】「はい、とても落ち着きます。よかったら鈴さんもやってみませんかっ」
<0908>【鈴】「あたしはやらん。見てる」
<0909>【クド】「そうですか…」
<0910>【鈴】「見てるほうが楽しい」
<0911>【クド】「わかりましたっ。楽しんでくださいっ」
<0918>【クド】「できました! 『和』ですっ!」
<0919>【鈴】「クドはその字が好きなのか?」
<0920>【クド】「はい。『和』は日本を表したりもします。私は今住んでいる、みなさんのいるこの国が大好きです」
<0921>【クド】「それに、『和む』という意味もあります。穏やかで落ち着く感じがする、とてもいい字なのです」
<0922>【クド】「つまりですね、和むというのは、大好きなものがあるときなのですっ」
<0923>【鈴】「…あたしはクドといると和む」
<0924>【クド】「はいっ、私も鈴さんと一緒だと和みまくりですっ」
<0931>本当は知ってる。
<0932>悲しいのは、みんなもういないから。
<0933>本当はわかってる。
<0934>悲しいのは、そこにもう戻れないから。
<0935>…大切だったんだ。
<0936>今になって、すごくすごく、大切になってるんだ。
<0945>【小毬】「ここは私の一番好きな場所なんだよ~」
<0946>【鈴】「………」
<0947>【小毬】「でも、ここはほんとは出ちゃいけないところだから」
<0948>【小毬】「出てるのは、秘密なのです」
<0949>【鈴】「…秘密」
<0950>【小毬】「うん、秘密」
<0951>【鈴】「じゃあ、あたしとこまりちゃんしか知らないのか?」
<0952>【小毬】「ううん、前に理樹君もここに来ちゃったことがあったよ」
<0953>【小毬】「…でも、私から教えたのは、りんちゃんがはじめてかな」
<0954>【鈴】「なんであたしには教えてくれるんだ」
<0955>【小毬】「ふえ? …うーん…」
<0956>【小毬】「…一番のなかよしさんだから、かな」
<0957>【小毬】「りんちゃんと私、お友達だから」
<0962>あたしはいっぱい貰ってる。
<0963>…なくしてから気付くなんて、遅すぎるんだ。
<0969>【小毬】「今のりんちゃん、友達がいっぱいいるから」
<0974>もらったこと。
<0975>できること、大切な事。
<0976>怖いことだけなんかじゃない。
<0977>もっといっぱいあった。
<0978>あたしはきっと、やらなきゃいけない。
<0991>【鈴】「………」
<0992>夕焼けだった。
<0993>長い影はひとつ、あたしの足から伸びているだけ。
<0994>思い出す。
<0995>小さい頃、夕焼けは、終わりの合図だった。
<0996>太陽が沈む前に、みんな家に帰ってしまう。
<0997>どれだけ楽しい遊びをしてても、夕焼けで、終わり。
<0998>そのとき、あたしはどんな事を思っていただろう。
<0999>そんな答え、今になってあたしは知りたくないし…そんな風に思ったことを、また思い出したくなかった。
<1000>それは、寂しいってことだった。
<1001>…『さよなら』、だけで別れるなんていやだ。
<1002>『また明日』って言って。
<1003>同じ場所で、また一緒に遊びたいんだ。
<1008>【小毬】「…お願い事、ひとつ」
<1009>【小毬】「りんちゃんも、ちゃんと笑っていられますように」
<1014>それは、いつだったろう。
<1015>全部全部、覚えてる。
<1016>どうすれば、あたしは笑っていられるだろう。
<1017>どうすれば、怖いことを思い出しても、笑っていられるだろう。
<1018>それは、かんたんだ。
<1019>みんな、笑っててくれればいい。
<1020>きっと、まだできる。
<1025>【鈴】「…こまりちゃん」
<1026>【鈴】「そのお願い事、叶えてみせる」
<1028>…いこう。
<1029>あたしだけじゃ、戸惑うだけかもしれないけど。
<1030>【鈴】「理樹」
<1031>【鈴】「あたしの手を、引いてくれ」
<1032>それで、絶対…きっと、叶えてみせる。
(to SEEN2523 #Z07 <0732>)
0
SEEN2603 #Z00 Little Busters! Epilogue
Epilogue
<0014>声。
<0015>声が聞こえる。
<0016>【?】「…今日はくもりのちあめー…」
<0017>単調なメロディ。
<0018>【?】「ねこねこ、うたうー」
<0019>けれどとても楽しそうに。
<0024>【?】「のきしたはくらい」
<0025>【?】「輪のしたはこわい」
<0026>【?】「くさばはつめたい」
<0027>【?】「ねこねこ、うたうー」
<0028>【?】「明日はあめのちはれー…」
<0029>【理樹】「ん…」
<0033>僕は机の上にうつ伏せになっていた。
<0038>顔を起こすと、開け放たれた窓と机に腰掛けた鈴が見えた。
<0039>鈴は鼻歌をうたいながら、窓の外を眺めている。
<0040>その横顔があんまりに…
<0041>…あんまりに儚げで消えてしまいそうだった。
<0042>【理樹】「…鈴?」
<0043>その存在を確認したくて、僕は呼ぶ。
(If Rin=0, to <0054>; If Rin=1, to <0048>)
<0048>【鈴】「…ん?」
(to <0055>)
<0054>【鈴】「…ん?」
<0055>鈴は歌うのを止めて僕を見た。
<0056>【鈴】「起きた?」
<0057>【理樹】「うん…起きた…」
<0058>体を起こして教室を見渡す。
<0059>誰もいない。
<0060>【理樹】「誰もいない…」
<0061>【鈴】「放課後だから当然だ」
<0062>【理樹】「それも、そっか」
<0063>ふぁ、とあくびをする。
(If Rin=0, to <0366>; If Rin=1, to <0067>)
<0067>【鈴】「………」
<0068>【理樹】「何、鈴?」
<0075>鈴はぴょん、と机から下りる。
<0076>ずい、と顔を近づけてきた。
<0077>【理樹】「な、なに?」
<0081>【鈴】「…ん」
<0082>ぴ、と人差し指を立てる。
<0083>【理樹】「? …?」
<0084>くるくる、と鈴が人差し指を回す。
<0085>つられて指先を追う。
<0089>【鈴】「ん」
<0090>【理樹】「っ!?」
<0091>唇に指先が当てられた。
<0095>【鈴】「よだれ」
<0096>【理樹】「え、あ、よだれたれてる?」
<0100>【鈴】「垂れてる。垂れまくり」
<0101>ぴっ、と指先で払う鈴。
<0102>【理樹】「うあ…」
<0106>よだれ垂らして寝こけてたのか。
<0107>ちょっと間抜けだ。
<0111>【鈴】「………うー」
<0112>【理樹】「どしたの鈴?」
<0113>鈴は指先を見たまま困った風に唸った。
<0117>【鈴】「えいっ」
<0118>ぱくっと指先を自分の口の中に入れた。
<0119>【鈴】「…もごもご…」
<0120>【理樹】「な、何してるのさ」
<0124>【鈴】「みんなが男のつばはなんか違うとか言ってたから」
<0125>【鈴】「…どこが違う?」
<0126>【理樹】「い、いや、そんなこと僕に訊かれても…」
<0127>【理樹】「というか、鈴、いきなりそんなことしないでよ」
<0128>なんだか恥ずかしい。
<0132>【鈴】「だって」
<0133>鈴は頬をふくらませた。
<0134>【鈴】「あたしだけ話に入れなかった」
<0135>【鈴】「葉留佳に慰められた…」
<0136>【理樹】「そ、それは想像するとかなり…」
<0137>面白そうな光景だな…。
<0141>【鈴】「でも、もう語れるっ!」
<0145>鈴は腕組みをして力強く頷いた。
<0146>【鈴】「一緒だ!」
<0147>【理樹】「そ、そう…それはいい勉強になったね…」
<0148>って、僕も何を言ってるんだ…。
<0149>まだ寝ぼけてるのだろう。
<0153>【理樹】「んーっ」
<0154>僕は背伸びをした。
<0158>【鈴】「………」
<0159>【理樹】「どうしたの、鈴?」
<0160>鈴は机に手をつくと、じっと僕を見ている。
<0161>【鈴】「実は」
<0162>【理樹】「うん?」
<0163>【鈴】「不意打ちしようか迷ってた」
<0164>【理樹】「どこを不意打ち…」
<0168>【鈴】「…ん…」
<0169>ちょん、と軽い感触。
<0171>静かな教室の空気に、ちりん、と鈴の音が響いた。
<0176>夏は駆け足で通り過ぎて行った。
<0177>いつの間にか日の光がずいぶん優しくなっている。
<0178>それとともに風にひんやりとしたものを感じる季節になっていた。
<0179>久しぶりに冬服に袖を通してみる。
<0180>しばらくは夏服だった鈴も、もう冬服だ。
<0189>【鈴】「…こうしてるとき頭の中、どーなってる?」
<0190>そっと唇を離すと鈴が不思議そうに訊いてきた。
<0191>【理樹】「…色々考えてるかな…」
<0192>【鈴】「例えば?」
<0193>【理樹】「そうだね、例えば…」
<0194>【理樹】「例えば、鈴のしてる髪飾りのこととか」
<0195>【理樹】「あるいは鈴の髪の毛のこととか」
<0196>【理樹】「もしくは鈴の唇の感触とか」
<0200>【鈴】「あたしのことばっかだな」
<0201>【理樹】「うん、そうだね…というか、別のこと考えて欲しいの?」
<0205>【鈴】「…別のこと?」
<0206>【鈴】「あたし以外のこと?」
<0207>【理樹】「うん」
<0211>【鈴】「うー…」
<0212>【鈴】「………」
<0216>ぶんぶんっ。
<0217>鈴は首を大きく振った。
<0218>【鈴】「なんかやだな」
<0219>【理樹】「だろうね」
<0220>立ち上がって背伸びをする。
<0221>腕が痺れてるころをほぐす。
<0222>【理樹】「そういう鈴は?」
<0226>【鈴】「…何も考えてない」
<0227>【理樹】「え、そうなんだ」
<0228>【鈴】「頭の中真っ白だ」
<0229>【理樹】「そいうもんなんだ…」
<0233>【鈴】「そゆうもんだ」
<0234>鈴がなんだか偉そうに頷く。
<0235>【鈴】「…恭介が読んでた漫画に、こういうシーンあった気がする」
<0236>【理樹】「どんな話?」
<0237>【鈴】「…昔からいっしょにいた男の子と女の子のはなしだ」
<0238>【理樹】「おもしろかった?」
<0239>【鈴】「よくわからない…ただ」
<0240>【理樹】「ただ?」
<0244>【鈴】「ためになった。べんきょーになったかんじだ」
<0245>【理樹】「恭介が聞いたら泣いて喜びそうだね」
<0249>【鈴】「…泣いてなんかなかったぞ」
<0250>【鈴】「むしろ大笑い」
<0251>【鈴】「何で笑うんだ、あの馬鹿兄貴」
<0255>【鈴】「どーせあたしは何にも行動できないとかおもってるんだろう」
<0256>【鈴】「こどもあつかいなんだから」
<0257>膨れる鈴。
<0258>そういう仕草が子供っぽいんだけどな。
<0259>でも、そこが可愛いから黙っていることにしよう。
<0260>言ったらキックが飛んできそうだし。
<0264>【鈴】「なので」
<0265>【鈴】「あたしからしてみた」
<0266>鈴は誇らしそうだ。
<0270>【鈴】「どーだっ」
<0271>【鈴】「意外性たっぷりでかんぺきだ!」
<0272>【理樹】「うん、鈴、がんばったね」
<0273>【鈴】「がんばった」
<0275>ちりん。
<0276>【理樹】「がんばった鈴にご褒美を献上したい」
<0277>【鈴】「うむ。献上するがいい」
<0278>僕はそっと鈴の頬に手を伸ばす。
<0282>【鈴】「ん…」
<0283>なでなで。
<0284>鈴は猫みたいに喉を鳴らした。
<0285>【鈴】「なでなでだけ?」
<0286>【理樹】「…だけじゃ物足りない?」
<0290>【鈴】「足りない」
<0291>鈴は素直に感情をぶつけてくる。
<0292>【鈴】「まったくぜんぜんとことん足りてない」
<0293>【理樹】「そっか」
<0294>僕はくすくす笑う。
<0298>鈴を引き寄せた。
<0299>頭を軽く撫でる。
<0300>【鈴】「…んー…」
<0304>【鈴】「やっぱり寝てる間に背伸びた?」
<0305>【理樹】「そんなことはないと思うけど…」
<0309>【鈴】「なんかおっきくなったきがする」
<0310>【理樹】「そうかな…半年前よりは伸びているかもしれない」
<0311>【理樹】「色々、あったから」
<0315>僕は鈴の顔に手を当てて、顎を反らせた。
<0316>ちょっと膝を折って、目を閉じた鈴に口づけをする。
<0317>ちゅ…
<0318>【鈴】「…ん…っ…」
<0319>合わせてからそっと閉じる。
<0320>触れあっているだけのキス。軽く鈴の背中に手を回した。
<0321>制服越しに鈴の体を感じる。
<0322>ほっそりとしたしなやかで安心する鈴の温もり。
<0323>僕の大切な鈴。
<0327>【鈴】「…ふぅ…」
<0328>とん、と靴音がする。
<0329>つい足が伸びてしまい、鈴は背伸びをしていたのだ。
<0330>【理樹】「ごめん、足、大丈夫?」
<0331>ぼーっとしているみたいだ。
<0332>【理樹】「鈴?」
<0336>【鈴】「……ふぅぅ……」
<0337>鈴は深い息を吐いた。
<0338>【鈴】「ちょっとだけ、空を飛んだみたいだった」
<0339>【鈴】「真っ白で…持ち上げられたみたいな…かんじ」
<0340>【鈴】「結構面白い」
<0341>【理樹】「面白い?」
<0342>【鈴】「…面白い…楽しい…違う…なんていったらいい?」
<0343>【理樹】「うーん、なんだろ…」
<0344>【鈴】「なんだろ…」
<0348>二人で考え込む。
<0352>【鈴】「もっかいして考えよう」
<0353>【理樹】「それはいいアイデアだね、鈴」
<0354>僕は頷いた。
<0355>【理樹】「じゃ、もっかい」
<0359>【鈴】「もっかい…ん…」
<0360>鈴は心地よさそうに目を閉じた。
(to <0384>)
<0366>【理樹】「HR終わったら起こしてって真人に頼んでおいたのに」
<0367>でも教室には誰もいない。
<0368>窓から入ってくる風で、カーテンが緩やかに波打っているだけだ。
<0369>【鈴】「寝る子は育つ」
<0370>【理樹】「もう寝てる間に身長が伸びる年じゃないよ、鈴」
<0371>【理樹】「それで他のみんなは?」
<0372>【鈴】「どっか行った」
<0373>【理樹】「ひどいな、僕はおいてけぼりか…」
<0374>【鈴】「寝こけてるからだぞ」
<0375>【理樹】「それもそっか…あ、鈴は行かなかったの?」
<0376>【鈴】「残していけないから」
<0377>【理樹】「あぁ、そうなんだ…ごめん」
<0384>あの時、僕らに起こっていたことは、結局なんだったんだろう。
<0385>おぼろげだけど…いくつかの記憶の断片は、僕にも残っている。
<0386>それこそ、本当にただの夢だったのかもしれない。
<0387>けれど、確かにそれは、今ここにいる僕に影響を及ぼして…。
<0397>【小毬】「りきく~んっ」
<0401>【葉留佳】「最新情報ですよっ」
<0402>【理樹】「え、なに?」
<0406>【葉留佳】「ふっふっふ、それはですネ…」
<0410>【美魚】「…宮沢さんが帰ってくるそうです」
<0414>【葉留佳】「ああぁーっ!! 私のセリフーっ!!」
<0418>【クド】「宮沢さんにお会いするのも、とても久しぶりなのです~」
<0422>【理樹】「………」
<0426>【小毬】「…理樹君」
<0427>【理樹】「ん…」
<0431>【小毬】「これで、9人だねっ」
<0432>【理樹】「…うん、そうだね」
<0433>笑顔の小毬さんに、笑顔で返す。
<0438>こうして、みんなと一緒に、平凡な日常を送る事が出来ている。
<0445>【来ヶ谷】「そうなると、残りはあとひとりか」
<0446>【理樹】「そう、かな」
<0450>あとひとり。
<0451>恭介が戻ってきたら、僕たち『リトルバスターズ』は、元通りになる。
<0458>【男子生徒】「宮沢が戻ってきたぞーっ」
<0459>教室に駆け込んでくる生徒が、そう叫んだ。
<0463>【葉留佳】「あー、きたみたいだよっ」
<0474>【謙吾】「…久しぶりだな、みんな」
<0475>松葉杖を付いた謙吾が、教室に入ってきた。
<0479>【小毬】「おかえりなさい~」
<0480>【クド】「おかえりですっ」
<0481>一斉に、みんなで取り囲む。
<0485>【葉留佳】「やー、お互い災難でしたネっ」
<0486>【美魚】「…足の方は、その後どうでしょうか」
<0490>【謙吾】「なに、ギプスも外れた事だし、こう大げさにするまでもない」
<0491>松葉杖をひょい、と持ち上げ、一歩足を踏み出してみせた。
<0495>【謙吾】「ぐ……」
<0496>【謙吾】「………」
<0497>【謙吾】「へ、平気だ」
<0501>【鈴】「冷や汗かいるぞこいつ」
<0505>【来ヶ谷】「そのようすじゃ、まだ大暴れは出来んな」
<0509>【来ヶ谷】「しばらくはおとなしくしているがいい」
<0513>【謙吾】「ぐむ…」
<0517>【真人】「へ…しょうがねえな」
<0521>【真人】「早く治しちまえよ。決着はそのあとだぜ」
<0525>【謙吾】「決着か…」
<0529>【謙吾】「…そうだな。そんなものをつけるのも、悪くない」
<0533>【真人】「へへ…」
<0537>【謙吾】「ふっ…」
<0538>男ふたりが、笑い合う。
<0542>【小毬】「…うん、これであと恭介さんだけだね」
<0543>【理樹】「うん…そうだね」
<0547>…恭介は一番の重症だった。
<0548>あの後も、すぐに集中治療室に担ぎ込まれ、誰ひとりとして面会を許されない状況だった。
<0549>みんなが地元の病院に移動したあとにも、恭介だけは他の大きな病院へと移された。
<0550>心配じゃない、といったら嘘になる。
<0551>けれど、恭介はきっと、帰ってくる。
<0552>それまで、もうちょっとの間。
<0553>【理樹】「じゃあ、今日は何しようか?」
<0554>恭介の代わりに、リトルバスターズをまとめていくのが、僕のするべきことだと思う。
<0561>…あの事故は、奇跡だといわれていた。
<0562>爆発が起こる前に、全員を救出できたのは、一体なぜだったのか。
<0563>ほんの少し、その事が騒がれたけど、僕と鈴の名前が出ることはなかった。
<0564>奇跡の立役者、なんていったらおこがましいだろうけど。
<0565>きっとその奇跡は、何か…神様とか、そんなのが起こしたものなんてのじゃない。
<0566>…僕らが、それを起こしたんだ。
(If Rin=0, to <0578>; If Rin=1, to <1081>)
<0578>夏休みも過ぎ、新学期が始まるころには、事故に巻き込まれたみんなもだいぶ帰ってきていた。
<0579>それでも、まだいくつかの空席がある。
<0580>…あれだけの事故だ。まだ完治せずに、入院したままの人だっている。
<0581>それでも、命に関わる深刻な怪我をした人がひとりとしていなかったのは、本当に不幸中の幸いだった。
<0588>僕らも、しばらくは教室でおとなしくする事にしている。
<0589>みんなはちょっぴり退屈そうにするけど、さすがに怪我人もいる中、また野球の練習なんてのは無理だ。
<0601>【真人】「うおっしゃっ! バッチこいやーっ!!」
<0605>【謙吾】「ふん…いくぞっ」
<0606>かきーんっ!!
<0610>【真人】「うおおっ、強烈なライナーだが…捕ったぁーっ!!」
<0611>【理樹】「って廊下でなにやってるんだよっ!!」
<0615>全くおとなしくできないふたりがここにいた。
<0616>【理樹】「謙吾も怪我がまだ治ってないんだから無茶しちゃダメだよ」
<0620>【謙吾】「むう…」
<0624>【真人】「ははっ、怒られてやんの」
<0628>【謙吾】「…なんだと? そもそもやろうと言い出したのはおまえだろうがっ!!」
<0631>【真人】「へっ…やろうってのかい」
<0635>【謙吾】「無論だ…切り捨てるのみっ!!」
<0636>【理樹】「だーかーらー!! そういうのは怪我治るまで禁止っ!!」
<0640>…このふたりをまとめるだけでも大変だ。
<0650>【葉留佳】「でもなー、私ももうちょっとにゅーいんしたままだったらなー」
<0654>【葉留佳】「単純に夏休みが減っただけですヨ、私は」
<0658>【来ヶ谷】「ほう、足も動かずベッドに寝たままの方がよかったのか?」
<0662>【葉留佳】「あ、いやー、それはいやかも…」
<0667>葉留佳さんは夏休み中に傷もほとんど治ってしまったらしい。
<0668>新学期の初日には、『ノリでバスを変えたのが大失敗でしたネ』と笑顔で語っていた。
<0669>…それと、休みの間に姉妹の佳奈多さんと仲直りをしたみたいだ。
<0670>それでも、相変わらず顔をあわせれば口論で、騒がしい葉留佳さんを追いかける風紀委員の数が減る事はなかったけど。
<0677>【美魚】「…わたしはもう少し休みでも一向に構わなかったのですが」
<0681>【美魚】「ゆっくり本を読む、いい機会でした」
<0686>西園さんは、足を骨折していたらしい。
<0687>けれど、折れ方が綺麗だったらしく、一ヶ月もすればギプスも取れていた。
<0688>それと…前より、笑顔になる事が多くなった気がする。
<0693>【理樹】「そういえば、クドは大変だったね」
<0697>【クド】「はい、でも今はもう平気です」
<0701>【クド】「…私には、帰る場所が出来ましたからっ」
<0706>詳しくは聞いていないけれど、クドの『故郷』で大きな事件があったらしい。
<0707>けれど、それもなんだか丸く収まったようで、クドはいつでも故郷に戻る事が出来るようになった、とのことだ。
<0714>【来ヶ谷】「………」
<0718>【小毬】「ふえ? ゆいちゃん、どうしたの?」
<0722>【来ヶ谷】「いや、ゆいちゃんと呼ぶなと…」
<0726>【来ヶ谷】「別に、なんでもないさ」
<0730>【理樹】「……?」
<0735>来ヶ谷さんに関しては、僕は全く何も覚えていなかった。
<0736>他のみんなも、あのときのことはあまり話さないけれど。
<0737>来ヶ谷さんは、本当に何ひとつ話そうとはしなかった。
<0738>…その話が出ると、来ヶ谷さんは、笑ってどこかへ行ってしまう。
<0739>ほんの少し、寂しそうな笑顔で。
<0746>【小毬】「でも、本当によかったよ」
<0750>【葉留佳】「ん、なにが?」
<0754>【小毬】「あと少しで、全部元通り」
<0758>【小毬】「えへへ。恭介さんも早く戻ってこないかなっ」
<0763>小毬さんは、本当に嬉しそうに、そう言った。
<0764>小毬さんと鈴は、あれから、ずっと仲が良くなったようだ。
<0765>前みたいに鈴も照れくさそうにしないし、自然に笑っているように見える。
<0766>きっと、本当の意味で『友達』になれる何かがあったんじゃないかと思う。
<0767>それが、ずっと心配していた鈴の成長のように思えて、僕は嬉しかった。
<0773>…色々あったけど。
<0774>僕らは今、『いつもどおり』の中にいた。
<0775>たったひとりの帰還を、今か今かと待ち焦がれながら。
<0776>日々は、続いていく。
<0786>放課後。
<0787>別に今は野球の練習をしているわけじゃないけど、僕らは集合場所としてここに集まっている。
<0792>【理樹】「あれ…」
<0793>今日は僕が一番乗りみたいだ。
<0794>真人と謙吾もジュース買いに行ってから来るらしいし、ちょっと待つ事にする。
<0795>【理樹】「………」
<0796>ちょっとした間があると、ふと恭介のことが浮かんできてしまう。
<0797>夏休みだって、新学期からの生活だって、きっと恭介がいればもっと楽しかっただろう。
<0798>…もちろん、今が楽しくないわけじゃない。
<0799>ただ、やっぱり…どこかにぽっかりと穴が開いているような気持ちになる。
<0808>【鈴】「理樹」
<0809>【理樹】「ん、早いね」
<0810>鈴が入ってくる。
<0814>【鈴】「…みんなはまだか」
<0818>どっか、と僕の向かいの椅子に座る。
<0822>【鈴】「………」
<0823>【鈴】「前から聞きたかったんだ」
<0824>【理樹】「え、なに?」
<0825>【鈴】「おまえ誰が好きなんだ」
<0826>【理樹】「ぶっ…」
<0827>…思いっきり予想外の言葉が鈴の口から飛び出した。
<0828>【理樹】「い、いや誰って言われても」
<0832>【鈴】「…あたしなりに色々考えたんだ」
<0833>【鈴】「だがよくわからん」
<0837>【鈴】「あたしは理樹が好きなのか?」
<0838>【理樹】「ちょっとちょっと…いきなり性急過ぎるよ…」
<0839>【理樹】「それに、そんなの僕に訊かれてもわかるわけないから」
<0843>【鈴】「うーん…」
<0844>腕を組んで悩みだす。
<0845>…やっぱり、鈴にはまだそういう気持ちはわからないのかもしれない。
<0846>【理樹】「鈴は恭介のことはどう思う?」
<0850>【鈴】「ん…あいつか」
<0851>【鈴】「いなきゃ困る」
<0852>【理樹】「じゃあ、僕は?」
<0853>【鈴】「いなきゃ困る」
<0854>【理樹】「同じなんじゃないかなぁ」
<0858>【鈴】「うーーーん…」
<0859>また腕を組んで考え出す。
<0860>…鈴がそういう恋愛を始めるのは、もうちょっと先のことになりそうだ。
<0864>【鈴】「で、おまえ誰が好きなんだ」
<0865>そこにもどるのかっ。
<0866>【理樹】「いやいや、だから…」
<0870>【鈴】「こまりちゃんか」
<0871>【鈴】「こまりちゃんはやさしいし、いいお嫁さんになりそうだ…」
<0872>どんどん話を進めていく。
<0873>【理樹】「あの…鈴?」
<0874>【鈴】「クドはかわいいし、みおもいっしょにいるとおちつく」
<0878>【鈴】「くるがやはきれーだし頼りになりそうだ」
<0882>【鈴】「はるかは…」
<0886>【鈴】「微妙だがすごく楽しいやつだ」
<0887>…鈴の頭の中で僕の相手を色々シミュレートしているらしい。
<0892>【葉留佳】「え、何の話? 私微妙?」
<0896>【鈴】「………!!」
<0897>いつの間にか葉留佳さんが入ってきていた。
<0903>【小毬】「お菓子持ってきたよ~」
<0907>【クド】「すぐにお茶淹れますっ」
<0909>どやどやとみんな入ってきた。
<0913>【小毬】「ふわふわストロベリー買って来たよ~」
<0917>【小毬】「理樹君、前に食べたがってたよね」
<0918>【理樹】「あ、うん。ありがとう」
<0922>【鈴】「………」
<0923>【鈴】「こまりちゃんなら許す」
<0927>【小毬】「ふえ?」
<0931>【来ヶ谷】「なるほどなるほど」
<0932>察したのか、来ヶ谷さんは頷きながら僕を見る。
<0936>【来ヶ谷】「鈴君は理樹君のお節介な妹といったところか」
<0940>【美魚】「…なるほど」
<0944>【美魚】「直枝さんもいい妹さんを持って幸せ者ですね」
<0948>【鈴】「いもうとか」
<0949>【鈴】「………」
<0953>【鈴】「頼りない兄だな」
<0954>【理樹】「いやそんなダメ出しされても…」
<0958>【鈴】「とりあえず、察しがいいくるがやとみおも合格だ」
<0962>【来ヶ谷】「それは光栄だな」
<0966>【美魚】「…はあ」
<0967>西園さんは良くわかっていないようだった。
<0971>【クド】「理樹、お茶が入りましたよ」
<0972>【理樹】「あ、悪いねクド」
<0976>【クド】「いえいえ。みなさんもどうぞです」
<0980>【鈴】「クドも許す」
<0984>【クド】「はい? なんだかわからないですが、許されましたっ」
<0985>次々認可が下りていく…。
<0989>【葉留佳】「えー? 私は私はー?」
<0993>【鈴】「はるかはうるさい」
<0997>【葉留佳】「なんか私だけめっちゃ虐げられてるっ!?」
<1001>【鈴】「…だがそこがいいところだと思う」
<1005>【葉留佳】「おおっ、逆転満塁ホームランがきたーっ!!」
<1009>【葉留佳】「鈴ちゃん可愛いっ!! 私からも大合格っ!!」
<1010>…鈴の後から葉留佳さんが抱きつく。
<1014>【鈴】「うぅ…恥ずかしいから止めろ…」
<1018>【クド】「私も鈴さんは可愛いと思います~」
<1022>【小毬】「私もりんちゃん大好きだよ~」
<1023>みんなして鈴にくっつく。
<1027>【鈴】「ううううぅぅぅ…」
<1031>【鈴】「いいかげんにしろおまえらーっ!!!」
<1035>【小毬】「ほわあっ!!」
<1039>【クド】「わふーっ!!」
<1043>【葉留佳】「あはははにげろーっ!!」
<1044>みんなしてドタバタと部室の中を走り回る。
<1048>【来ヶ谷】「…美魚君は参加しないのか?」
<1052>【美魚】「キャラじゃないですから」
<1056>【来ヶ谷】「ふむ?」
<1060>【美魚】「どれだけ風向きが変わっても、わたしはわたし、ですよ」
<1064>【来ヶ谷】「そうか」
<1068>そんな話をするふたりと一緒に、騒がしくする4人を眺めていた。
<1069>結局、鈴はみんな好きってことなんだろうなぁ。
<1070>【理樹】(………)
<1071>つまりは、そういうことなのかもしれない。
<1072>みんなが一緒だと、楽しい。
<1073>…今はそれでいいんじゃないかと思った。
<1081>数日して。
<1089>【謙吾】「めでたく完治だ」
<1093>【真人】「これでようやくバトル再開か」
<1094>【真人】「早速勝負だ、謙吾っ!」
<1098>【謙吾】「馬鹿か、バトルには足りないものがあるだろう」
<1102>【真人】「おっと、オレとしたことが大事なもんを忘れてた」
<1106>【謙吾】「もう少し我慢しておけ」
<1110>そう。その人がいないと遊ぶ楽しさも半減してしまうんだ。
<1111>だから、みんな待ち続ける。
<1112>僕も待ち続ける。
<1114>【理樹】「じゃあ、代わりに何をやろう?」
<1118>【謙吾】「火渡り修行なんてどうだ」
<1122>【真人】「火!?」
<1126>【真人】「うわあぁぁーっ! やめてくれえぇぇーーっ!!」
<1127>【理樹】「うわ、真人がすごい昔のことを思い出して苦しんでる…」
<1128>それは初めて出会った日のことだ。
<1132>【謙吾】「ファイヤーダンスでもいいぞ」
<1136>【真人】「どぅるあああぁぁぁぁーーっ!!」
<1140>【謙吾】「あれは楽しかったな。俺とあいつの呼吸がぴったり合っていた」
<1141>【理樹】「鈴もね」
<1145>【鈴】「あれは大笑いだったな」
<1146>でも楽しかったのは、やっぱりあの人が居たからなんだ。
<1150>【来ヶ谷】「だがファイヤーダンスは見るのは楽しそうだが、やりたくはない」
<1151>【理樹】「まあ、そりゃそうか」
<1155>【小毬】「じゃあ缶ケリはどうですかっ」
<1156>【理樹】「それもやっちゃったしなぁ…」
<1160>それに、前にやったような仕掛けがないと、盛り上がりに欠ける気がする。
<1164>【葉留佳】「お泊り会っ」
<1168>【鈴】「まだお昼だぞ」
<1172>【葉留佳】「キモ試しっ」
<1173>【理樹】「だからまだお昼だって」
<1177>【美魚】「人形劇はいかがでしょう」
<1181>【来ヶ谷】「肝心の脚本家がいないな」
<1185>【謙吾】「趣向を変えて、今度はみんなで剣道というのはどうだ」
<1189>【真人】「おめえが強すぎて面白くねえだろうよ…」
<1193>【葉留佳】「新聞紙ブレードならすぐ用意できますヨ」
<1197>【葉留佳】「でもこれはこないだやっちゃいましたしネ…」
<1198>【理樹】「うーん…」
<1199>なかなか、新しい遊びが思い浮かばない。
<1203>【小毬】「うーん…」
<1207>【葉留佳】「困ったね…」
<1211>【来ヶ谷】「………」
<1215>それからみんなで、あーでもない、こーでもないとアイディアを出し合う。
<1216>…でも、決まらない。
<1217>たったひとりがいないだけ。
<1218>…そのひとりの存在はとても大きい。
<1223>けれど。
<1224>きっと、その人は。
<1225>もうすぐ、帰ってきて。
<1235>【声】「みんな、揃ってるな」
<1240>窓の方をみる。
<1245>…その人が。
<1246>窓の向こうに、いた。
<1247>【理樹】「…きょ、恭介っ!!」
<1248>【恭介】「ああ」
<1249>みんな、口々にその名前を呼びながら、その人の下へ。
<1250>【理樹】「恭介…」
<1251>【理樹】「お、おかえり…っ!!」
<1252>【恭介】「…いいタイミングだろう?」
<1253>そう言いながら、無邪気に笑う。
<1254>その人は、こうやって帰ってきて。
<1255>…こう言って、みんなを驚かせるんだ。
<1256>【鈴】「…けが、平気なのか?」
<1257>心配そうに鈴が言った。
<1258>集中治療室に入れられるくらいの大怪我だ。当然、まだ完治もしていないだろう。
<1259>けれど、見た目にはとてもそうは思えない。
<1260>…帰ってきたのは、いつもの恭介だ。
<1261>【恭介】「俺なら、大丈夫だ」
<1262>【恭介】「そうじゃなかったら、こんな真似もできないだろう」
<1263>片手でロープを登ってみせる。
<1264>【理樹】「うわっ、あぶないからっ」
<1265>【恭介】「ははっ」
<1266>ムチャクチャなことをする。
<1267>恭介は、いつだってムチャクチャだ。
<1269>【恭介】「…さて、早速だが」
<1270>そうして、いつでも…。
<1271>【恭介】「俺たちで、もう一度…修学旅行に行くぞ」
<1272>…無茶苦茶なミッションを、僕らに出すんだ。
<1288>計画通り。
<1289>僕らは学校の前に停めてある、恭介が用意したワゴン車に乗り込む。
<1290>目的地は、海。
<1291>本当の修学旅行とは違う場所だけど、みんなも賛成だった。
<1292>ワゴン車は10人じゃ、ちょっと狭い。
<1293>けれど、そんなの関係ない。
<1295>【真人】「…大丈夫なのかよ、これ」
<1296>【恭介】「なに、免許はちゃんとあるぞ」
<1297>【謙吾】「いつの間に…」
<1298>【恭介】「俺がおとなしくベッドで寝てるだけだとでも思ったか?」
<1299>【来ヶ谷】「うむ、それで退院が遅れたわけだな」
<1300>【恭介】「う…まあ、否定しないさ」
<1301>【小毬】「ここ一緒に回ろうね~」
<1302>【鈴】「うん、あたしはここもいきたい」
<1303>【クド】「なんだかとてもどきどきなのですっ」
<1304>【葉留佳】「あはははっ、こんな事やるのも私たちくらいだろうしねっ」
<1305>【美魚】「…違う意味でもスリリングですが」
<1306>【鈴】「おい、理樹」
<1307>【理樹】「え?」
<1308>【鈴】「…ここは、一緒に行こう」
<1309>【理樹】「うん、そうだね」
<1313>もう一度、ここから始まる、僕らの物語。
<1314>それは『リトルバスターズ』の物語。
<1315>きっとまだまだ、続いていく…。
<1316>遥か彼方まで。
<1318>【恭介】「さあ、おまえら準備はいいか?」
<1319>皆が一様に頷く。
<1321>【恭介】「よし、それじゃあ、出発だ!!」
リトルバスターズ! エンディング(SEEN9602)
(Game=1)
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