電撃G'sマガジン 5月号/Keyが歩んだ道のり、目指すべき未来
○緊張との戦い!? スタッフ大奮闘のステージイベント
--今回のイベントの発案者は? また、具体的な内容はどのように決めましたか。
都乃河:発案者は社長です。ゲームの開発のスケジュールがきつい中で、誰もが無理だと思ってました(笑)。
ステージイベントの内容も二転三転しましたねー。
初めは麻枝さんの音楽講座と、僕のシナリオ講座があるはずでした。
それがいつの間にか『CLANNAD』トークショウと麻枝さんの弾き語りに変わってまして。
麻枝:『CLANNAD』を入れたのは俺の提案です。
だって、Keyらじと俺や都乃河君の講座じゃ、あまりに内輪っぽくて学園祭レベルじゃないですか。
せめて声優さんもお呼びして華を添えようかと……。
都乃河:なぜか僕が司会をやることになり、どーしよどーしよと困った挙句、魁先生も巻き込んでしまいました(笑)。
--では個々のイベントについて、折戸さんからお聞きします。
Keyらじのメンバーでお客の前で話すのは初めてですよね。
折戸:ええ。録音もしてなくて、正真正銘1回きりのライブでした。
--緊張なされたのでは!?
折戸:そうでもないですよ。Keyらじのお客さんは、かっちりとしたものより、
ゆるゆるのまったり雰囲気を望んでると思っていたんです。
だから、ウチらのいつものノリでやればいいと、わりとリラックスしてました。
お客さんも、こちらが話を振るとしっかり反応してくれるのでよかったです。
2日目は麻枝君や都乃河君も呼んで、サプライズで、いたるさんの誕生日のお祝いもさせてもらって。
麻枝:素で仰天してましたね。てっきり、いたるさん気づいてるものだとばかり思ってた。
なのに、花束渡したらメチャ驚いて(笑)。
都乃河:「こんなの台本にないよ!」って反応で、大成功でしたね。
--Keyらじを今後も、お客さんの前でやってみたいって思います?
折戸:そうですね、今後も機会があればやってみたいですね。
都乃河:すぐにはキツイですけど(笑)。
麻枝:あ、『Rewrite』の販促イベントって形ならいいじゃない。やるべきだよ(笑)。
--ぜひ、お願いします! 続いて、『CLANNAD』トークショウのお話を司会を務めた都乃河さんにお聞きします。
都乃河:広橋さん、着物姿がすごくかわいかったですね。井上さんも中原さんもすごくおきれいで。
阪口さんも、かの『Vガンダム』の主役を務めた方で……本当にすごい方々に囲まれて緊張しまくりでした。
控え室で無言になり、お腹まで痛くなってきて大変でした。
麻枝:キミ、テンパるのは仕方ないけどあの空気はやめて。こっちにまで伝染するから!
ウソでもふだんどおりに振る舞ってよ(笑)。
都乃河:無理ですよあれは~。ただ、自分でもこれじゃいかんと思って、胃薬飲んで必死にがんばりました。
もともと、人前で話すのはそんなに得意じゃないんです。
でも、よかったこともありましたよ。
イスの位置変えを手伝ってる時に「あっ都乃河だ!」って、近くのお客さんに見つかって会話になったんですよ。
その反応が暖かくて。「ありがとう! お前ら愛してるぞー!」と口からほとばしり出て。
今考えるとものすごく恥ずかしいことですけど、それくらいうれしかったです。
--では、また機会があればこういった舞台に出てみませんか?
都乃河:どうせ緊張してまわりに迷惑かけるから、やめたほうがいいかも。
でもお客さんの反応があるのはうれしいので、またいつか、いい胃薬が発明されたらやりたいです(笑)。
折戸:もし『Rewrite』でイベントをやることになったら出ざるをえないんじゃない?
都乃河:やったほうがいいんですかね。
麻枝:君がやらないで誰がやるのって感じでしょ。お客さんも喜んでくれるし。
都乃河:発売前のゲームを語るのって難しいんですよね……。
でも、お客さんのためとあらば、ぜひやらせていただきますよ。
--『Rewrite』ファンはお楽しみに、ということで。
さて、最後は、麻枝さんの弾き語りについて聞かせていただきます。この初の試みをするにいたった経緯から。
麻枝:当初、先ほど話したように音楽講座をやろうとしてたんですね。
俺がどんなやり方で作曲しているかを、音楽に詳しくない人でもわかるように説明しようと。
というのも、自分の作曲法はかなり自己流で、ふつうの作曲者のやり方とは違うんですよ。その秘密を明かそうかなと。
でも途中で、この手のステージで堅っ苦しい講座を開いても盛り上がらないと気づいてしまったんです。
エンターテイメントとして楽しめるようにするなら、自分が歌うほうが、
ユーザーが喜んでくれるんじゃないか、と考え直しました。
最初は社長にすら、不安がられてましたが。
--練習はどれほど?
麻枝:企画が決まったのが12月で、練習期間は正月休みから2ヶ月強くらいですね。
自分の曲をコピーするのも歌うのも生まれて初めてで、コードを取るところから始めました。
都乃河:猛練習でしたよねえ。
毎日、昼休みになるとどこからともなく麻枝さんが、ボイストレーニングをする声が聞こえてきて……。
--歌う曲は最初から固まっていました?
麻枝:セットリストはいっぱい候補挙げて、いろんな曲を練習して決めてました。
ただ、やってみてハッキリしましたが、いい曲でも歌えるとは限らないんですね。
そりゃLiaさんとかうまい歌手さんだったらなんでも歌えますよ。
でも、自分みたいなヤツでは歌えない曲もあるわけです。
「小さな手のひら」や「Saya's Song」とか、押さえるべき曲はあるんですけど、難しくて歌えなくて。
いくら練習しても、どうしてもモノにできない……。
そんな感じでいろいろ試して今の10曲に厳選しました。
だから、「僕らの恋」みたいなマイナーな曲でも「うわ、これ自分に合ってる」って思った曲はリストに入ってます。
--ライブ中のMCでおっしゃってましたが、「汐のための子守歌」は
『CLANNAD』TVアニメの18話、19話を観て、感動のあまり詩を書いたとのことでしたよね。
麻枝:本当にライブ直前、1週間前に思いつきました。
20分かそこらでサラサラっと歌詞が書けたから、ぜひやってみようと。
--ステージ上では、緊張してましたか?
麻枝:しましたねえ。というか。
人前に出たことがないので、自分が緊張するタイプなのかどうかすらわからなくて。
でも、寸前になったら、意外と落ち着いてたかも?
--いざ歌ってみて、お客さんの反応は?
麻枝:温かくて、感動しましたよ! 拍手がムチャクチャ長いんですよ。
いつまでも鳴り止まず、歓迎してもらえてるって感じで。
その拍手を浴びた時こそ、「ファンのみんなに会いたかった」っていう今回のイベントに向けた想いが、
まさに達成された瞬間だったんです。
本当にお客さんがすばらしかった。
--他のスタッフのみなさんはこの弾き語りをどう見てました?
都乃河:企画を知った瞬間は、マジかよっという気持ちでしたよ。
聴いてみたいという半面、大丈夫かよって心配する気持ちもあって。
運動会で走る我が子を見守るような気分でした(笑)。
折戸:ああ、しのり~もおんなじようなこと言ってたわ。お母さんのように心配してた。
やってる間もソワソワドキドキ(笑)。
都乃河:「汐のための子守歌」を聴いた瞬間、ただのKey信者だったころの自分がよみがえって、
リハーサルなのにボロボロ泣きそうになってました。
本番はもう、僕1人まわりも気にせず舞台横で泣きまくってましたね。
--今後また、別の舞台で麻枝さんの歌を聴けることはあるのでしょうか?
麻枝:それはちょっと……。今回はお客さんに助けられたにすぎないと思ってるんですよ。
自分を応援してくれる人たちが集まってくれたからこその感動であって、
次やったとしても同じようなお客さんが集まってくれるとは限りません。
自分があれだけ下手くそでグダグダでも感動できたのは、ひとえにお客さんがすばらしかったから。
ある意味、10年祭の2日間の奇跡。
いろんなことが合致して巻き起こった、奇跡の時間だったということで、甘くは考えてません。
無料イベントだからよかったものの、お金を取って観てもらうレベルじゃないですし。
仮に次をやるにしても、スキルアップが絶対に必要ですね。
○確かな足取りで歩き出す11年目のKeyブランド
--夜の部の、コンサートライブについてお聞きします。
こちらはサウンド担当の折戸さんが深く関わられたのでは?
折戸:昨年5月のKSLライブに比べたら、関わりは少なくてすみました(笑)。
KSLライブでは司会を入れたり、ムービーを入れたり、ネタっぽいこともしましたが、
今回は純粋に、歌をじっくり聴いてもらおうと考えました。
バンドもプロミュージシャンの方にお願いしたので、アレンジも演奏もよかったですね。
僕も1人のお客として十二分に楽しめました。
都乃河:僕が作詞させてもらった「Alicemagic」で会場がドーンと沸いた時は、
隣にいたNa-Gaさんに、「メチャメチャ盛り上がってますよ! これ、俺が詩書いたんですよ!」って
ものすごく興奮して叫んでました(笑)。
お客さん全員にありがとうって言って回りたい気分になりましたよ。
麻枝:「Little Busters! -Little Jumper Ver.-」の盛り上がりもものすごかったよ。
あと、デキに満足しているのは、Liaさんの「Karma」って曲。
歌も映像も絵もすべてがリンクして、1つのちっちゃな映画みたいな、感動的なデキに仕上がってました。
都乃河:あれはすごい。新しいなにかを見た気がします。
映画でもないし、ゲームでもないし、アニメでもないし、PVでもない。
麻枝:そうそう、新しいなにかを作った気がした。
ごとPさんの絵がすごかったし、ムービー屋さんもすごいセンス。もちろんLiaさんの歌も。
あの曲は自分が今回仕込んでおいた隠し玉で、喜んでもらえてよかったです。
--では、2日間のイベントを通じての、まとめの言葉をいただけますか。
折戸:ファンのみなさんの想いとか熱気を感じられた2日間ですね。それにつきます。
麻枝:それしかないよね。
自分も初めての舞台で、ファンのみなさんに接することがとてもうれしいことだと知りました。
みなさんの温かさに、こちらからもありがとう、です。
折戸:本当、元気をもらったって感じですね。
都乃河:全力でこれからもいいものを作って、またこういう機会でファンのみなさんにお会いしたいです。
これって、『リトバス』の小毬でいうところの"幸せスパイラル"ですね。
--10年祭ということで、みなさんが10年前と比べて変わった部分を教えてください。
折戸:僕は性格的にマイペースなので、当時から変わっていないですね。ネガティブな意味ではなく。
これからも変わらずに、Keyを続けていきたいと改めて思っています。
都乃河:僕は10年もKeyにいないんですが、それでも素人だったころと、
商業作品を作るようになってからは意識の変化がかなりあります。
始めはその違いがわからなくて失敗も多かったけど、最近はちょっとずつつかみかけてます。
プレッシャーはすごくありますけど、ちょっとずつ成長していきたいです。
麻枝:……自分はこの10年、ずーっと同じことを考えてました。
Keyには久弥直樹君っていうシナリオライターがいて、Keyができる前から『ONE』って作品で評価を得ていました。
しかし、彼はKeyのデビュー作の『Kanon』を手がけて辞めてしまいました。
そこからの自分は、久弥君がつけてくれたKeyのファンを、彼の代わりに、必死でつなぎ止めようとがんばってきたんです。
自分のせいでKeyのファンがいなくなったらどうしよう、なんとかみんなにKeyのファンでいてほしいって、ただそれだけ。
そこには楽しさも幸せもなく、苦しみばかりの10年間でした。
でも今回、ゲームクリエイターとして初めて幸せを実感したいと思い
「自分の作品のファンがいるんだ」「そうだ、ファンに会いに行こう」と、弾き語りをやらせてもらいました。
これからの10年はファンといっしょに、幸せなクリエイター人生を送れたら……そう願ってます。
あの祭りの中の2日間は、自分にとって新たなスタートの日になったんですよ。
--これからのさらなるご活躍を、G'sマガジンも心より願っています。
……さて、今現在ですが、みなさんがどんなお仕事を手がけているかも教えてください。
都乃河:『Rewrite』ですね。語ることはそれしかありません。バリバリ書いてます。
折戸:同じく『Rewrite』です。このイベントで、完全に中断してしまっていたのでがんばらないといけないですね。
麻枝:自分は『Rewrite』のチェックという役どころですが、まだノータッチです。
あえて、現時点ではシナリオも読まないようにしています。
シナリオのチェックというよりも、1本のゲームとしてチェックをしなければいけない立場ですから、
先入観を持たないように。
あと、『Rewrite』とは別に、大きめの企画を用意してるんですが……これはまた後日に。
--おおっ!? それは期待していいんでしょうか。G's誌上で発表させていただく日を楽しみにしています!
では最後になりますが、みなさんがあと10年かけてやってみたい夢や目標を教えていただければと思います。
折戸:漠然としてますが……いろんなものを作りたいですね。ゲームにとどまらずに。
音楽を通してでもいいし、別の媒体でもいいし。
バンドを結成して笛吹いたりとかね(笑)。
都乃河:『Rewrite』を成功させるのは当然として、もっと先
……今回のイベントで一番うれしかったのはファンの「ありがとう」って言葉だったんですよ。
だから、みんなが心から「これ作ってくれてありがとう」って感じてくれるような作品を作っていきたいと思ってます。
自分自身が、そういう作品で育ってきた人間ですから。
麻枝:自分はKeyを、感動系AVGを作るブランドから、
RPGを作るブランドに10年かけて緩やかに移行させていきたいと思います。
都乃河:ちょっ! マジなんですか(笑)。
麻枝:「そういえば昔、Keyって泣きゲーで有名だったよね~」って言われるように。
ほんとに、RPG作りたいんだって俺は!(笑)