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芳野(よしの)「ここは玉交換(たまこうかん)と清掃(せいそう)だけだな」
朋也(ともや)「はい、そうっすね」
俺(おれ)は伝票(でんぴょう)を確認(かくにん)しながら言(い)った。
邪魔(じゃま)にならないように軽(けい)トラを止(と)め、材料(ざいりょう)と工具(こうぐ)を確認(かくにん)した。
芳野(よしの)「岡崎(おかざき)、先(さき)に玉(たま)を外(はず)してこい」
朋也(ともや)「はい、わかりました」
荷台(にだい)にある梯子(はしご)の紐(ひも)をゆるめ始(はじ)めた。
何度(なんど)もやった仕事(しごと)だ。
手順(てじゅん)も、清掃(せいそう)も、もう一人(ひとり)で出来(でき)ると思(おも)う。
が、今日(きょう)の現場(げんば)は運(うん)が悪(わる)かった。
朋也(ともや)「…どうするよ」
呆然(ぼうぜん)と呟(つぶや)くしかない現場(げんば)だった。
俺以外(おれいがい)の作業員(さぎょういん)が見(み)れば、何(なん)の変哲(へんてつ)もない現場(げんば)。
ただ足場(あしば)が悪(わる)く右側(みぎがわ)に梯子(はしご)を立(た)てられないだけ。
左側(ひだりがわ)に梯子(はしご)を掛(か)け、右手(みぎて)を伸(の)ばせば簡単(かんたん)な作業(さぎょう)。
今(いま)まではわざわざ反対側(はんたいがわ)に回(まわ)り込(こ)み、左手(ひだりて)一本(いっぽん)でこなすことが出来(でき)た。
どうしようもない場面(ばめん)だけ無理(むり)な体勢(たいせい)で作業(さぎょう)をした。
それでも街灯(がいとう)を包(つつ)み込(こ)むケースにすら届(とど)かない。
もし外(はず)そうとするなら、安全帯(あんぜんおび)を梯子(はしご)ごと電柱(でんちゅう)に引(ひ)っかけて固定(こてい)し、身(み)を乗(の)り出(だ)す必要(ひつよう)があった。
芳野(よしの)「どうかしたか」
朋也(ともや)「い、いえ。何(なん)でもないっす」
梯子(はしご)の上(うえ)で逡巡(しゅんじゅん)している俺(おれ)は、芳野(よしの)さんから見(み)れば不思議(ふしぎ)だろう。
俺(おれ)は覚悟(かくご)を決(き)めた。
ポケットに入(い)れていた安全帯(あんぜんおび)を最大限(さいだいげん)まで伸(の)ばし、梯子(はしご)を電柱(でんちゅう)に固定(こてい)した。
その上(うえ)で腹(はら)に付(つ)いているフックで外(はず)れないようにした。
これなら、最悪(さいあく)でも俺(おれ)は宙吊(ちゅうづ)りになるだけで済(す)む。
朋也(ともや)「…よし」
後(あと)は、目一杯(めいっぱい)体(からだ)を伸(の)ばすだけだ。
芳野(よしの)「岡崎(おかざき)。ちょっと待(ま)て」
朋也(ともや)「は、はい?」
芳野(よしの)「足(あし)、踏(ふ)み外(はず)して落(お)ちたら腹筋(ふっきん)がいかれる」
朋也(ともや)「は?」
芳野(よしの)「今(いま)すぐ降(お)りてこい」
朋也(ともや)「え?
どういうことですか?」
芳野(よしの)「右肩(みぎかた)が上(あ)がらないんだったよな」
俺(おれ)はとっさに何(なに)を言(い)われているのかわからなかった。
芳野(よしの)「早(はや)くしろ」
朋也(ともや)「は、はい…」
俺(おれ)は言(い)われるままに梯子(はしご)を降(お)りていった。
結局(けっきょく)、そこの現場(げんば)は芳野(よしの)さんが一人(ひとり)で作業(さぎょう)をこなした。
俺(おれ)は上(のぼ)まで材料(ざいりょう)を持(も)っていったり、工具(こうぐ)を運(はこ)んでいただけだった。
次(つぎ)の現場(げんば)に向(む)かう途中(とちゅう)…
朋也(ともや)「…何(なん)で、わかったんですか?」
俺(おれ)はそう訊(き)いてみた。
芳野(よしの)「何(なに)が」
朋也(ともや)「その…右肩(みぎかた)が上(あ)がらないことです」
もし仕事(しごと)を辞(や)めろと言(い)われても仕方(しかた)ないと思(おも)う。
けど、何(なに)も言(い)わずにいてくれた芳野(よしの)さんの気持(きも)ちだけは知(し)りたかった。
芳野(よしの)「見(み)ていればわかる」
朋也(ともや)「ならどうして何(なに)も言(い)わなかったんすか」
芳野(よしの)「言(い)ってどうなることでもないだろ。それとも治(なお)る見込(みこ)みがあるのか?」
朋也(ともや)「い、いえ」
芳野(よしの)「ならいいだろ」
朋也(ともや)「よくないっすよっ」
芳野(よしの)「落(お)ち着(つ)け」
朋也(ともや)「ずっと何(なに)も言(い)わず、肩(かた)がおかしいの、隠(かく)してたんすよ、俺(おれ)」
芳野(よしの)「でも、努力(どりょく)はしてただろ」
俺(おれ)は顔(かお)を上(あ)げた。
単(たん)なる慰(なぐさ)めにしか聞(き)こえなかった。
芳野(よしの)「確(たし)かに肩(かた)が上(あ)がらないってのは、この仕事(しごと)には向(む)かないと思(おも)う」
芳野(よしの)「けど、おまえはずっと努力(どりょく)してたし、どうにもならないような時(とき)でも自分(じぶん)で何(なん)とかしようとしてただろ」
芳野(よしの)「俺(おれ)はそれをずっと見(み)てきた」
そんなところまで…見(み)ていてくれたんだ…。
朋也(ともや)「ありがとうございます」
俺(おれ)は泣(な)きそうな声(こえ)で礼(れい)を言(い)った。
芳野(よしの)「馬鹿(ばか)。礼(れい)なんて言(い)うな」
芳野(よしの)「俺(おれ)は礼(れい)を言(い)われることなんてしていない。いや、できなかった。おまえのせいでな」
朋也(ともや)「…え?」
芳野(よしの)「手伝(てつだ)ってやろうにも、黙(だま)ったまま、ひとりでやるもんだから、手伝(てつだ)えなかった」
芳野(よしの)「けど、今後(こんご)は、俺(おれ)を頼(たよ)れ」
朋也(ともや)「でも…」
芳野(よしの)「何(なん)のために俺(おれ)がいると思(おも)ってるんだ?」
朋也(ともや)「これ以上(いじょう)、迷惑(めいわく)なんてかけられないっすよ…」
芳野(よしの)「言(い)っておくが、おまえのことで迷惑(めいわく)なんて思(おも)ったことはない」
芳野(よしの)「だから、遠慮(えんりょ)なく頼(たよ)れ」
芳野(よしの)「俺(おれ)も一人(ひとり)じゃ何(なに)もできない」
芳野(よしの)「だから親方(おやかた)や、仲間(なかま)のみんな、おまえがいる」
芳野(よしの)「仕事(しごと)だからな。できない事(ごと)は頼(たよ)っていいんだ」
芳野(よしの)「そして、その時(とき)には聞(き)かせてもらおう」
芳野(よしの)「礼(れい)の言葉(ことば)をな」
俺(おれ)は小(ちい)さく、はいと呟(つぶや)いた。
聞(き)こえたかどうかはわからない。
けど、芳野(よしの)さんは頷(うなず)いてくれたように見(み)えた。
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朋也(ともや)「おはようございます」
作業員(さぎょういん)「おー」
親方(おやかた)「おつかれさん。暑(あつ)い中(なか)ご苦労(くろう)さん」
朋也(ともや)「そうっすね。最近(さいきん)は夏(なつ)みたいに暑(あつ)いっす」
作業員(さぎょういん)「そういや坊主(ぼうず)、タオル持(も)ってないんか?」
朋也(ともや)「いえ、持(も)ってないっす」
作業員(さぎょういん)「ジョニーさーん、タオルってなかったですかね?」
ジョニー「伝票入(でんぴょうい)れの下(した)にあっただろ、ボーイ」
作業員(さぎょういん)「おー、あったあった。坊主(ぼうず)、これ持(も)っていけや」
朋也(ともや)「いいんすか?」
ジョニー「なに、もらいもんだから気(き)にすんな、ボーイ」
朋也(ともや)「ありがとうございます」
今(いま)まで話(はなし)をしなかったから気(き)づかなかったが、案外(あんがい)面白(おもしろ)い人(ひと)が多(おお)いのかもしれない。
ロッカーで区切(くぎ)られた更衣室(こういしつ)で、芳野(よしの)さんに会(あ)った。
朋也(ともや)「おはようございます」
芳野(よしの)「おう。あ、岡崎(おかざき)、これ」
ごん。
芳野(よしの)「…受(う)け取(と)れ、それくらい」
朋也(ともや)「いきなり投(な)げないでください。で、なんすか、これ」
芳野(よしの)さんが投(な)げつけてきたのは、新品(しんぴん)のベルトだった。
大(おお)きな袋(ふくろ)が二(ふた)つ付(つ)き、片方(かたほう)は何(なに)かを差(さ)し込(こ)めるようになっている。
芳野(よしの)「さっさと付(つ)けろ」
朋也(ともや)「は?」
芳野(よしの)「作業着(さぎょうぎ)に通(とお)して、しっかり締(し)める。毎日(まいにち)見(み)てるだろうが」
朋也(ともや)「は、はい」
俺(おれ)は、見(み)よう見(み)まねでベルトの親玉(おやだま)を締(し)めつけた。
芳野(よしの)「あと、これ」
朋也(ともや)「投(な)げないでください。近(ちか)いんですから」
芳野(よしの)さんは残念(ざんねん)そうに、椅子(いす)の上(うえ)へ小箱(こばこ)を置(お)いた。
開(あ)けてみると、真新(まあたら)しい工具(こうぐ)が入(はい)っていた。
朋也(ともや)「…これ、使(つか)ってもいいんですか?」
芳野(よしの)「道具無(どうぐな)しでベルト締(し)めるのか?」
朋也(ともや)「あ、ありがとうございます」
俺(おれ)は慌(あわ)ててビニールを外(はず)し、ベルト――工具袋(こうぐぶくろ)へ差(さ)し込(こ)んだ。
それだけで嬉(うれ)しかった。
芳野(よしの)「今日(きょう)、八件(はっけん)だから手早(てばや)くな」
朋也(ともや)「はい」
芳野(よしの)「最初(さいしょ)は何処(どこ)だ?」
朋也(ともや)「え?」
こつん。
頭(あたま)を拳(こぶし)で軽(かる)く殴(なぐ)られる。
芳野(よしの)「…確認(かくにん)しろ。前(まえ)も言(い)っただろうが」
朋也(ともや)「はいっ、すみません」
俺(おれ)は急(いそ)いでダッシュボードに入(はい)っている地図(ちず)と伝票(でんぴょう)を取(と)り出(だ)した。
朋也(ともや)「えっと、一件目(いっけんめ)は中通(なかどお)りの街路(がいろ)で補修(ほしゅう)です。分電盤(ぶんでんばん)のチェックと玉交換(たまこうかん)、清掃(せいそう)もあります。二件(にけん)目(め)は……」
芳野(よしの)さんは時々(ときどき)頷(うなず)きながら、軽(けい)トラを走(はし)らせていた。
芳野(よしの)「岡崎(おかざき)、やってこい」
朋也(ともや)「はい?」
芳野(よしの)「分電盤(ぶんでんばん)のチェック、玉交換(たまこうかん)と清掃(せいそう)だから、一人(ひとり)でできるだろ」
朋也(ともや)「いいんですか?」
芳野(よしの)「それくらいできるだろ」
朋也(ともや)「は、はいっ」
俺(おれ)が答(こた)えると、芳野(よしの)さんはさっさと二本(にほん)隣(となり)の電柱(でんちゅう)へ登(のぼ)ってしまった。
初(はじ)めて、一人(ひとり)でやる仕事(しごと)。
いつもやっていることではあったが、一人(ひとり)となると緊張(きんちょう)した。
芳野(よしの)さんが登(のぼ)った電柱(でんちゅう)はドラム缶(かん)みたいなトランス(変電機(へんでんき))があり、そちらでショートしてないか、ヒューズは大丈夫(だいじょうぶ)か、などを調(しら)べていた。
朋也(ともや)「そちらは大丈夫(だいじょうぶ)ですかー?」
芳野(よしの)「問題(もんだい)ない」
小(ちい)さく声(こえ)が返(かえ)ってきた。俺(おれ)も作業(さぎょう)を始(はじ)めていいみたいだ。
まずは足場(あしば)の確保(かくほ)。
電柱(でんちゅう)は事故防止(じこぼうし)のために、下(した)から三(さん)、四本(しほん)の足場(あしば)を抜(ぬ)いている。
まずはそれをしっかりと取(と)り付(つ)ける。
慎重(しんちょう)に登(のぼ)りきったら、安全帯(あんぜんおび)を金具(かなぐ)に括(くく)って、電柱(でんちゅう)と一体化(いったいか)させる。
これなら落(お)ちることはないし、万(まん)が一足(ひとあし)を滑(なめ)らせても、宙(ちゅう)づりになるだけだ。
難(なん)を言(い)えば、簡単(かんたん)には降(お)りられないことくらいだ。
そのため、いつもなら梯子(はしご)を使(つか)うところだが、今(いま)は芳野(よしの)さんが使(つか)っている。
俺(おれ)は慎重(しんちょう)に、いつもの作業(さぎょう)に取(と)りかかった。
朋也(ともや)「終(お)わりました」
芳野(よしの)「ああ。じゃ、ちょっと待(ま)ってろ」
そう言(い)って芳野(よしの)さんは、電柱(でんちゅう)を登(のぼ)りだした。
三分(さんぶん)くらい上(あ)で見(み)ていた芳野(よしの)さんは、一回(いっかい)だけ頷(うなず)いて降(お)りた。
芳野(よしの)「よし、まあいいだろ」
朋也(ともや)「はい?」
芳野(よしの)「だから、あれでいい」
朋也(ともや)「え?」
芳野(よしの)「…もういい」
芳野(よしの)さんは黙(だま)り込(こ)んで軽(けい)トラに乗(の)り込(こ)んでしまった。
俺(おれ)も追(お)いかけるようにして、助手席(じょしゅせき)に乗(の)り込(こ)む。
朋也(ともや)「…ひょっとして褒(ほ)めてくれたんですか?」
芳野(よしの)「ん?」
朋也(ともや)「いや、さっきのあれでいいって」
芳野(よしの)「まぁな」
朋也(ともや)「芳野(よしの)さんに褒(ほ)められたの、初(はじ)めてな気(き)がしますよ」
朋也(ともや)「俺(おれ)、上達(じょうたつ)してるってことですよね」
芳野(よしの)「毎日(まいにち)同(おな)じことやってるんだからな、当然(とうぜん)だろ」
正直(しょうじき)、嬉(うれ)しかった。
ずっと違和感(いわかん)のあったこの場所(ばしょ)。
それが自分(じぶん)の居場所(いばしょ)として、馴染(なじみ)んでいくのが実感(じっかん)できた。
事務所(じむしょ)にいても、みんなから、声(こえ)をかけてもらえるようになった。
煤(すす)まみれの先輩(せんぱい)たち。
朋也(ともや)(ああ、本当(ほんとう)に、あの頃(ころ)からは考(かんが)えられない…)
窓(まど)の外(そと)に下校(げこう)していくどこかの学校(がっこう)の生徒(せいと)を見(み)ながら思(おも)った。
あの頃(ころ)、机(つくえ)を並(なら)べていた連中(れんちゅう)は、みんな進学(しんがく)して、今(いま)もなお、勉学(べんがく)に励(はげ)んでいるのだ。
俺(おれ)だけ、ここにいる。
でも、ひとりじゃない。
同(おな)じように、毎日(まいにち)煤(すす)にまみれる人(ひと)たちと一緒(いっしょ)だ。
それが俺(おれ)が選(えら)んで…新(あたら)しく手(て)に入(い)れた場所(ばしょ)だった。
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芳野(よしの)「じゃ、始(はじ)めるぞ。さっき説明(せつめい)した手順(てじゅん)、覚(おぼ)えてるな」
俺(おれ)はざっと頭(あたま)の中(なか)で作業工程(さぎょうこうてい)を流(なが)した。
朋也(ともや)「大丈夫(だいじょうぶ)っす」
芳野(よしの)「よし。あと、今日(きょう)は後(あと)で補助(ほじょ)してくれ。防水(ぼうすい)ボックスの修理(しゅうり)だからな」
朋也(ともや)「はい、わかりました」
芳野(よしの)「斜(しゃ)ニッパ、取(と)ってくれ」
朋也(ともや)「はい。……あれ、芳野(よしの)さん、持(も)ってなかったですか?」
芳野(よしの)「手(て)が塞(ふさ)がって取(と)れないんだ。左手(ひだりて)に寄(よ)こせ」
朋也(ともや)「はい」
芳野(よしの)「あと、三芯(さんしん)のVVFケーブル210ミリ、両端(りょうはし)の皮(かわ)、むいとけ」
朋也(ともや)「何(なに)センチですか。圧着(あっちゃく)なら2センチ切(き)りますけど」
芳野(よしの)「4センチ出(だ)してれば、どっちでもできる。覚(おぼ)えておけ」
芳野(よしの)「25……いや38のラッピング、取(と)ってくれ。長(なが)さは……」
芳野(よしの)さんはリード線(せん)の束(つか)の長(なが)さを測(はか)っていた。
朋也(ともや)「保護管(ほごかん)っすね。標準(ひょうじゅん)ですか、難燃(なんねん)ですか?」
ラッピングとは電線(でんせん)をまとめる保護管(ほごかん)のことだ。
材質(ざいしつ)にいくつかあり、難燃性(なんねんせい)のものもある。
芳野(よしの)「一応(いちおう)難燃(なんねん)でやっておくか。燃(も)えたら事(こと)だしな」
朋也(ともや)「12センチくらいでいいですか?」
芳野(よしの)「ああ、そんなもんだ。よくわかったな」
朋也(ともや)「何(なん)となくですけど」
芳野(よしの)「黒(くろ)のブッシュ、切(き)っておけ。切(き)り口(くち)の枠(わく)に合(あ)うように。寸法(すんぽう)は任(まか)せる」
朋也(ともや)「はい」
俺(おれ)は配電盤(はいでんばん)に入(い)れられた切(き)り込(こ)み口(くち)の寸法(すんぽう)を測(はか)った。
切(き)られっぱなしの金属板(きんぞくばん)をそのまま放(ほう)っておくと腐食(ふしょく)し、そこを通(とお)る電線(でんせん)すら痛(いた)めてしまう。
それをカバーするのがブッシュというプラスチックの保護材(ほござい)だ。
俺(おれ)はブッシュにナイフを当(あ)てた。
ナイフには1センチ刻(きざ)みの印(じるし)をつけてある。
これは時間短縮(じかんたんしゅく)の知恵(ちえ)で、いちいちメジャーなどで測(はか)っていては作業効率(さぎょうこうりつ)が落(お)ちるのだ。
センチ単位(たんい)で大体(だいたい)の当(あ)たりを付(つ)け切(き)り取(と)り、ブッシュを填(は)める。
何度(なんど)もやっている作業(さぎょう)なので、ほとんど狂(くる)いもなく切(き)り込(こ)み口(くち)に収(おさ)まった。
朋也(ともや)「終(お)わりました」
芳野(よしの)「おう。じゃ、片(かた)づけてくれ。こっちも終(お)わる」
朋也(ともや)「はい、わかりました」
帰(かえ)りの車(くるま)の中(なか)。
芳野(よしの)「今日(きょう)は手際(てぎわ)が良(よ)かったな」
朋也(ともや)「そうっすか。ありがとうございます」
芳野(よしの)「まあ、覚(おぼ)えてなきゃ怒鳴(どな)るだけだが」
俺(おれ)は苦笑(くしょう)で返(かえ)した。
朋也(ともや)「ええ、どんどん怒(おこ)ってください。俺(おれ)なんかまだまだですから」
芳野(よしの)「言(い)ってろ」
芳野(よしの)さんは俺(おれ)を少(すこ)しだけ見(み)て、笑(わら)った。男臭(おとこくさ)い笑(え)みだった。
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:53:52